社説[衛藤氏「貧困」発言] 沖縄の子どもの貧困問題を被差別部落問題と「似たところがある」などと発言
社説[衛藤氏「貧困」発言] 事例の比較が不適切だ
6/26(土) 9:01配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/2bb41aa449df12f1e307180b94d301b759a55af0
沖縄タイムス
自民党の衛藤晟一前沖縄担当相が、沖縄の子どもの貧困問題を被差別部落問題と「似たところがある」などと発言した。
「同和地区では良い学校に行けず良いところに就職できないなど、貧困の連鎖がある」と主張。そうした貧困の連鎖は、ひとり親世帯が多く進学率が低い沖縄の子の置かれた状況と類似しているというのだ。
この比較は適当と言えるだろうか。
最近の研究によると、被差別部落の貧困は、それまで住民が営んできた家業が没落した明治中期以降に問題となった。その後の「家制度」浸透なども背景に、就職時に出生地を確認するといった差別が激しくなったのだという。
社会的差別のために働く権利が著しく制約された。教育の面でも不利益を被った。
これに対し、沖縄の子どもの貧困は沖縄戦とその後27年間の米軍統治などが大きく影響した。
激しい地上戦により県内の生産基盤は徹底的に破壊され、米軍の占領政策は高い付加価値を生む製造業の育成を阻んだ。占領中は基地関連、現在は観光に特化した産業構造は、繁忙期と閑散期の差による非正規雇用を広めた。
製造業の乏しさや非正規雇用は、全国の75%前後にとどまる低い労働生産性と県民所得の原因となっている。
原因も経過も異なる事象の類似性をあえて指摘するような発言は問題解決につながらず、衛藤氏の認識を肯定することはできない。
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衛藤氏は一連の記者団への発言の中で「(沖縄は)革新系も新聞も基地問題ばかり」とも述べている。
県やほとんどの米軍基地関係市町村は、首長の政治的立場にかかわらず基地担当の部署や職員を置いている。米軍専用施設の約7割が集中する結果、住民の騒音への苦情対応から基地内イベント開催時の調整までさまざまな折衝が必要だからだ。
多くの場合予算は自治体持ち出しで、他の施策展開を制約している。メディアにとっても毎日のように起きる米軍関係の事件・事故は報じざるを得ず、自治体やメディアは基地問題への対応をむしろ強いられている。
衛藤氏の発言はこうした沖縄の実態に沿ったものではない。沖縄担当相や首相補佐官なども歴任した与党重鎮議員の一人として、基地の負担軽減が進んでいない責任こそ自覚してもらいたい。
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過去の沖縄振興を巡り「インフラ整備や産業構造に頭が行き過ぎて、社会保障を誰もしない」とした発言はうなずかせるものがある。沖縄振興はこれまで道路や港湾などのインフラ整備に重きが置かれた。社会資本整備が進んだことで子どもの貧困解消などに重点を移す視点は重要だ。
政府が18日閣議決定した「骨太方針」は、沖縄振興の項目に人材育成の要素を盛り込んだ。また子ども・子育て支援の向上へ新たな財源を投じることも記している。振興予算以外の財源も活用しながら、沖縄の子どもの貧困解消を進めるべきである。
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