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川崎市 ヘイト規制に罰則という暴挙 弁護士 猪野 亨のブログ

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弁護士 猪野 亨のブログ

川崎市 ヘイト規制に罰則という暴挙 表現の自由に対する重大な脅威 「正義」が暴走する
2019/06/20

 川崎市がヘイト規制に罰則を設けることを表明しました。
「川崎市、差別禁止条例に罰則規定 実効性確保のため」(北海道新聞2019年6月19日)
「川崎市の福田紀彦市長は19日の市議会で、制定を検討しているヘイトスピーチ対策を含む差別禁止条例に罰則規定を盛り込む考えを示した。条例の実効性を確保するため、「表現の自由に留意しつつ、罰則規定である行政刑罰に関する規定を設ける」と述べた。」

こんな条例は憲法違反としか言いようがありません。
 2016年5月に成立した「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」、いわゆるヘイトスピーチ対策法では罰則はありません。この立法趣旨は、ヘイトスピーチは言論に過ぎず、特定の個人の人権を侵害するものではないことから、これに刑罰を科すことが表現の自由を保障する日本国憲法の価値に相容れないからです。
 そうした観点からみれば、条例でヘイトスピーチに罰則を科すことは、このヘイトスピーチ対策法の趣旨に反するものであり、違法というということになります。地域によって異なる条例を制定してよいという趣旨とは到底、考えられないからです。
 それ以上に表現の自由を直接、侵害するものとして端的に憲法違反です。
 川崎市長は、「表現の自由に留意しつつ」とは述べているものの、この場合の「留意」とは所詮は、言ってみただけのレベルでしかなく、全く考慮していないことと同じことです。
 こうした言論に対してであれ、刑罰を科すことは言論を萎縮させます。
 少なくとも起訴、有罪ということにならなくても、その前段階としての逮捕や捜索差押えなどの強制捜査を可能にしてしまうのです。
 この恐ろしさがわかりますか。
 言論だけの行為に逮捕や捜索差押えなどの強制捜査ができてしまうんですよ。

 言論だけでこうした強制捜査を可能にするならば、いつ捜査当局に目をつけられやしまいかということを常に意識しなければならないことになります。ここまでは大丈夫だろうということは通用しません。こういうものは徐々に対象が広がっていくからです。もともとが曖昧な概念であるにも関わらず、それはこれも差別だろ、ということで言葉狩りにつながりかねません。
 特にヘイトスピーチだと批判している勢力は、実力行使もいとわない人たちもいます。
「ヘイトに関する講演会だろうと実力で妨害するやり方は問題だ 言論の自由を踏みにじる行為」

 こういった人たちの声のでかさばかりが目立つとき、取締の対象が拡大されかねません。言論の自由を制限するということは、必ず別のところでの制約がつきまといます。
 ヘイトだけが取り締まられると思ったらあまりに甘い。表現の自由の価値を相対的に低下させることになるからです。

 私たちはヘイトをなくさなければなりません。しかし、それは力によって達成できるものではありません。どんなに力で押さえつけようと心の中で住み着いてしまったヘイト思考を消せるものではありません。
 そこをはき違えると、ヘイトを主催する在特会との闘いだ、みたいに問題が矮小化されてしまうのです。
 政府は、ヘイトスピーチ対策法を制定していますが、まだ実効的な政策を実施していません。
 何故、差別がいけないのか、何故、差別が生まれるようなことになるのかを子どもたちに教育できていないということがヘイトが根絶できない根本的な問題です。
 それをせずに力で押さえつけるというやり方は、非常に危ないものがあります。
 そうしたことをしないで、川崎市のように力で抑え込もうというのは、全くの愚策です。
 安直にしつけと称して子に体罰を振るう親と一緒。これ自体ももう時代遅れとなり、体罰禁止が実現しているほどです。
 誤った対策は、かえって差別意識を助長するのです。力で押さえることは不可能だからです。

 というより私には、ヘイトに反対し、実力阻止する人たちが、こうしたヘイトを煽っているようにしか見えません。

 川崎市はヘイト規制に罰則を設けることを撤回すべきです。


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