LGBT「杉田論文」女性議員は何を思う
自民党の杉田水脈衆院議員が月刊誌で「LGBTに生産性なし」などと主張した論文をめぐり、今も波紋が広がる。自民党は「配慮に欠く表現があった」として本人を指導したが、そもそも何が問題だったのか。iRONNAでは今回、3人の女性政治家に寄稿を募った。「杉田論文」の核心を同性の視点から考えたい。
稲田朋美手記「杉田さん、LGBTを尊重するのが保守の役割です」
『稲田朋美』 2018/08/10
https://ironna.jp/article/10432?p=1
稲田朋美(衆議院議員)
平成28年2月、当時自民党政調会長であった私は、LGBTの当事者の方々が自分らしく、人として尊重され、活躍できる社会を実現するため、自民党の正式な会議体として「性的指向・性自認に関する特命委員会」を設置した。
特命委員会の委員長には、古屋圭司元拉致問題担当大臣に就任いただいた。古屋委員長とは思想信条、歴史認識も近く、私は古屋委員長を、柔軟な中に信念を貫く、そして人権感覚も優れたベテラン政治家だと尊敬している。
かつて私と古屋委員長は人権擁護法案反対の論陣を党内でリードした仲だが、それは人権を軽視しているということでは決してない。何が「人権」なのか、という定義は難しく、「人権擁護」の名の下に他者の人権を侵害するということもある。むしろ、個別法で人権を守っていくことの方が現実的だという考えからの行動だった。
政調会長時代には、二階俊博総務会長(当時)のご指導の下、「部落差別の解消の推進のための法律」も議員立法で成立させた。
さかのぼると平成27年秋、自民党政調会長としてワシントンで講演した際に、LGBTのことを言及した。LGBTについて考えるきっかけは、息子の友人に当事者がいたという極めて個人的なことだが、ワシントンでLGBTの人権について言及した日本の政治家は私が初めてだろうと言われた。
また、講演直前のことだが、サンフランシスコの慰安婦像設置にいち早く反対してくれたのは、実はLGBT団体だった。この問題が歴史認識やイデオロギー論争とは「無縁」と実感する良いきっかけとなった。
私のことを「歴史修正主義者」「右翼」という人もいるが、まっとうな保守政治家でありたいと思っている。保守の政治というのは、個人の自由を大事にすることだ。それは当然、自分勝手を認めることではない。自分が自分らしく生きたいと思うように、他者もそのように思っている。そういった他者への思いやりや尊重を大切にしたい。
自民党の稲田朋美衆院議員(斎藤良雄撮影)
その上で、人生100年時代の家族の在り方については、時代の変化とともにもっと柔軟なものであってよいのではないか。人々が自由にのびのびと生きられる社会、寛容な社会を実現したい。そうした風通しのよい社会こそがさまざまなイノベーションを生み、経済も成長させられるはずである。
そのような思いから、講演では次のように述べた。
「すべての人が平等に尊重され、自分の生き方を決めることができる社会をつくるために取り組みます。人は生まれつきさまざまな特徴を備えています。そのことを理由として、その人が社会的不利益や差別を受けることがあってはなりません。保守政治家と位置づけられる私ですが、LGBTへの偏見をなくす政策等をとるべきです」
「自民党は日本における保守政党ですが、その思想は多様です。大切なことは、人それぞれの個性を評価し、人々がその潜在能力を完全に発揮できるように支援する社会をつくること、また一生懸命努力し成功する人を評価し、一生懸命努力しても成功しない、または成功できない人を支援する社会をつくることです」
ワシントンでの講演後、平成28年2月3日の衆議院予算委員会で、LGBTについて加藤勝信・一億総活躍社会担当大臣(当時)に質問をした。
加藤大臣は「一億総活躍社会とは誰もが個性を尊重され将来の夢や希望に向けてもう一歩前に歩み出すことができる、そして多様性が認められる社会をつくるということでありますから、その社会を実現していく理念においてもLGBTといわれる性的少数者に対する偏見あるいは不合理な差別、こういったことはあってはならないのであります」と答弁している。多様性を認め、寛容な社会をつくることが安倍政権、そして自民党である。
特命委員会では設立当初から、LGBT当事者で一般社団法人LGBT理解増進会代表理事の繁内幸治氏にアドバイザーとして就任いただき、精力的に議論を続け、その後政府に対しLGBT理解増進のための33の施策を提言した。
しかし、その際、理解増進法を議員立法として自民党から提出することは断念した。あまりにも自民党内の理解が進んでいなかったからだ。その現実に愕然(がくぜん)とした私は、まずは党内の理解増進が先決だと痛感した。
だが、提言をしたその年の夏の参議院選挙の公約には、LGBTについて「正しい理解の増進を目的とした議員立法の制定」とともに「社会全体が多様性を受け入れていく環境を目指す」と盛り込むことができた。
人は、人として存在すること自体を尊重されなければならない。老いも若きも、障害がある人もない人も、そして性別がどうあろうとも、人が人として自分らしく、頑張って生きようとしている人々を応援する自民党でありたい。
自民党が下野した際に、自民党の綱領を新しくしたが、新綱領の中で「われわれが守り続けてきた自由(リベラリズム)とは、市場原理主義でもなく、無原則な政府介入是認主義でもない。自立した個人の義務と創意工夫、自由な選択、他への尊重と寛容、共助の精神からなる自由であることを再確認したい」と書き込んだ。まさに「他への尊重と寛容」の社会をつくることが保守の役割なのだ。
さらに、自民党が目指している理解増進法は、LGBT理解増進のために財政措置を講ずることができるとしているが、LGBTの方々やLGBTカップルを優遇したり特権を与えたりするものではない。
なぜ、私たちが「差別禁止」ではなく、「理解増進」を目指すのか。いきなり「差別」を禁止して「罰則」を設けたのでは、なぜLGBTが人権問題なのかが理解されず、政策に説得力、ひいては実効性がなくなるからだ。まずはLGBTの基礎的な理解を広めることが重要だ。
2018年5月、葉梨康弘法務副大臣(右)にLGBTへの差別禁止の法整備を要請したアムネスティ・インターナショナルの担当者ら
自民党では自由な議論が許され、党内の多様な意見が尊重される。憲法、人権擁護法案、女系天皇反対など、激しい議論の末に党の方針が決められる場面をいくつも見てきた。
これからきたる臨時国会で、LGBT理解増進法の議員立法化に向けて関心を寄せてくれる議員が増え、議論が活発化することを期待している。
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