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ヘイトスピーチを未然に防ぐ「事前規制」でも議論は分かれる。

認定なら発言者公表 大阪市条例(考 民主主義はいま)
http://digital.asahi.com/articles/ASJ7444MFJ74PTIL01H.html?rm=505
井上裕一、染田屋竜太、編集委員・中野晃
2016年7月22日12時43分
写真・図版
繁華街で街頭宣伝するグループに対し、ヘイトスピーチに反対する人たちも抗議に訪れた=17日午後、大阪市中央区
 大阪市で今月、特定の人種や民族を標的に差別をあおる「ヘイトスピーチ」の抑止を目指す全国初の条例が全面施行された。国会でも5月、ヘイトスピーチ解消に向け、国や自治体に相談体制の整備や人権教育の充実を求める対策法が成立したが、実効性を疑う声がある。施設の利用を拒否するなどし、ヘイトスピーチを未然に防ぐ「事前規制」でも議論は分かれる。
 17日午後3時。大阪市中心部の御堂筋で「行動する保守運動 関西」主催の街頭宣伝活動が始まった。
 大阪府警の警察官数十人が列になり、東側の歩道の一部をがっちり囲む。中で十数人がプラカードや横断幕を持って立っていた。男性が拡声機を持ち、「本日はルールを守り、きれいなナショナリズム、きれいな大嫌韓(けんかん)をさせていただこうと思います」と話した。
 車道を隔てた西側には韓国総領事館。男性は「反日外交をする韓国と今こそ縁を切るべきだ」と声を上げた。「韓国こそがレイシスト、差別国家」「極左暴力集団が朝鮮系犯罪集団、韓国人のテロ集団と一緒になって原発反対や安保反対運動をやっている」「犯罪を犯すのが韓国・朝鮮人なんですよ」――。グループは交代で拡声機を持ち、罵声を連ねていく。
 ガードする警察官の列から1~2メートルほどの場所では、「カウンター」と呼ばれ、反ヘイトスピーチを主張する十数人が「差別した人たちに謝れ」などと声を張り上げた。興奮した両者の間に警察官が割って入る。約1時間半、両者の直接の接触はなかった。
 在日コリアンらでつくる市民団体「ヘイトスピーチを許さない!大阪の会」はこの街宣がヘイトスピーチにあたるとの認定を求め、条例に基づき大阪市に申し立てる予定だ。すでにインターネット上のデモ動画など計13件の申し立てがあり、市は25日に初の審査会を開き、数カ月かけて判断するという。ただ、ヘイトスピーチと認定され、発言者の名が公表されても、本人が意に介さなければ、事態は繰り返されるだけだ。
 目の前で街宣を聞いていた在日朝鮮人のフリーライター李信恵(リシネ)さん(44)は「条例ができたためか、極端な差別発言は以前と比べて減った気がする」と話す。それでも市の中心部で、在日外国人を侮蔑する言葉は飛び交い続けた。
 「ヘイトスピーチを繰り返す人を街宣に参加させないなど、市はもっと踏み込んだ対応をしてほしい」
■「表現の自由」事前規制に慎重
 事前規制は可能なのか。
 3月13日。大阪市東住吉区にある「市立東住吉会館」は、数十人の警察官や警備員らに囲まれ、物々しい雰囲気となった。
 「在日特権を許さない市民の会」(在特会)の元幹部を含むグループが、大阪市のヘイトスピーチ条例を「在日特権条例」などと批判し、討論会を開いた。
 大阪市生野区のNPO法人「多民族共生人権教育センター」の文公輝(ムンゴンフィ)事務局次長は2月に市役所を訪れ、「市の施設でヘイトスピーチが行われるのは明らかだ」と使用許可の取り消しを求めた。だが市の担当者は「憲法で表現の自由が保障されている」と拒んだ。
 約70人が参加した討論会は3時間に及んだ。終盤、主催者側の一人が「朝鮮人は犯罪率が高い」などと言い放ち、別の男性が「ケンカするしかないんや」と叫ぶと、会場にいた在日コリアンらが反発してもみ合いとなり、警察官が制止する騒ぎとなった。
 大阪市では条例案づくりの段階で、公共施設の使用制限も議論したが、弁護士や大学教授らでつくる検討部会では「事前規制は表現の自由の侵害につながる」とする意見が大半だったという。ヘイトスピーチの発言者と公表された当人にも、公園や公共施設の利用は断れないとの立場だ。
 弁護士でもある吉村洋文・大阪市長も「ヘイトスピーチは表現の自由の範囲を超えている」としつつ、今月21日の記者会見で「公権力が事前に市民活動を禁止するのは、非常に抑制的であるべきだ」と慎重な構えをみせた。「条例でヘイトスピーチをしっかり認定し、『駄目なことである』という認識を広げていくことで、ヘイトスピーチの減少につなげていく」
 川崎市は逆に5月、在日コリアンの排斥を訴える団体側が申請した市内の公園の使用について、不許可とした。市はこの団体がこれまでもヘイトスピーチを繰り返しており、インターネット上の情報などから、「同様の言動が行われる可能性が高い」と判断した。
 国連の人種差別撤廃条約は「すべての適当な方法(状況により必要とされるときは立法を含む)により、いかなる個人、集団または団体による人種差別も禁止し、終了させる」と定め、日本を含む締約国に対策を義務づけている。(井上裕一、染田屋竜太、編集委員・中野晃)
     ◇
 〈国際人権法に詳しい丹羽雅雄弁護士(大阪弁護士会)の話〉 日本は人種差別撤廃条約に加盟しており、現行の法制度でも、人種差別的な言動が行われるおそれが認められれば、公共施設の利用を拒否できると考える。活動歴や言動、集会の位置づけから判断し、公共の場での人種差別的言動による人権侵害を防ぐ必要がある。大阪市の抑止条例の改正や、公共施設利用に関する特別条例の策定などで、判断の基準を明確にすればよい。
     ◇
 〈田島泰彦・上智大教授(メディア法)の話〉 ヘイトスピーチといえどもあくまでも言論であり、行為(アクション)とは異なる。規制するとしても、情報が市民に届いた上で、他の権利や利害との調整を図る事後的措置にとどめるべきだ。事前規制は市民の判断の余地を遮断し、表現の自由の観点からも望ましくない。ヘイトスピーチの概念そのものもあいまいな部分があり、条例の仕組みが妥当かどうかも含めて検討すべきだ。
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 〈大阪市のヘイトスピーチ抑止条例〉 ヘイトスピーチを「特定の人種もしくは民族の個人や集団を社会から排除し、憎悪や差別意識をあおる目的で侮蔑や誹謗(ひぼう)中傷するもの」などと定義。被害を受けた市民からの申し立てにより、大学教授と弁護士の計5人でつくる審査会がデモなどの発言内容を審査し、大阪市がヘイトスピーチと認定すれば、発言者名を公表する。過去のデモなどもインターネット上に動画が投稿され、現在も閲覧できる状態であれば、認定後に市は投稿者名を公表し、プロバイダーに削除を要請する。

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