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「差別表現」線引き難題  ヘイトスピーチ見えぬ法規制

「差別表現」線引き難題  ヘイトスピーチ見えぬ法規制
2015年11月27日 23時00分
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/national/article/209725
 
 特定の人種や民族に対する差別をあおるヘイトスピーチを禁じる議員立法「人種差別撤廃施策推進法案」が宙に浮いている。国連は日本政府に法整備を求めているが、ヘイトスピーチの「規制」と「表現の自由」をめぐって与野党の意見が折り合わず、成立の見通しは立っていない。
 「ヘイトスピーチは単なる暴言ではない。人の尊厳を傷つけ、人生をゆがめてしまうことさえある」。大阪市のNPO法人「多民族共生人権教育センター」の文公輝理事は、ヘイトスピーチを禁じる法律の早期成立を求めている。
 日本最大級のコリアンタウンがある大阪市生野区では、デモ隊が大音声で「朝鮮人は出て行け」などと叫ぶヘイトスピーチが起きている。人権教育センターが昨年9月から今年1月、区内の在日コリアン100人に聞き取りをしたところ、49人がヘイトスピーチを見聞きしたと答えた。
 「日常が壊されるようで恐怖だった」「思い出すと動悸(どうき)が激しくなる」「本名で生きていく子どもが心配」
 自由記述欄には心の傷がつづられた。ヘイトスピーチの標的になるのを恐れ、日本名での生活を余儀なくされたり、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を負ったりした人もいる。
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 人種差別撤廃施策推進法案は、民主党や社民党などが5月に国会に提出した。8月に審議を始め、継続審議になっている。
 法案は人種、民族などを理由に差別的な扱いや言動を禁じる基本原則を規定。龍谷大法科大学院の金尚均教授(刑法)は「警察が(差別を助長する)集会をやめさせられるし、損害賠償を求める裁判も起こしやすくなる」と効果を期待する。
 難題となっているのは、誰がどのような表現を「差別」と判断するかだ。
 恣意(しい)的に解釈すれば、憲法が保障する「表現の自由」が侵される恐れがある。自民党の平沢勝栄衆院議員は「野党案では表現の自由の規制につながる」と指摘。別の自民党議員も「禁止する言動が明示されなければ表現行為を萎縮させる」と話す。
 法案は内閣府に審議会を置き、調査や勧告の権限を与えることにしているが、公明党は「表現が違法かどうかの判断を権力側に委ねるのは危険」と反対する。
 公明党の矢倉克夫参院議員は「人種差別全般ではなく、ヘイトスピーチに特化した理念法の制定を目指すべきだ」と主張。通常国会では公明党が準備している対案を交え、与野党が協議するとみられる。
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 京都朝鮮第一初級学校が被害を受けたヘイトスピーチの裁判で最高裁は昨年12月、「在日特権を許さない市民の会」の上告を棄却。ヘイトスピーチを「人種差別」と認定し、街宣活動の禁止と損害賠償を命じた一、二審判決が確定した。
 この場合は被害者が特定できたため、民法の不法行為が適用された。だが繁華街で不特定多数に向けた差別的言動は、現行法では対応できない。
 ヘイトスピーチは2013年ごろに最も頻繁に行われ、今も全国の街頭で続いている。東京では22日、市民がヘイトスピーチの規制やさまざまな差別反対を訴えてデモ行進した。
 日本が1995年に加入した人種差別撤廃条約は、加盟国に「人種差別を撤廃する政策を遅滞なく取る」ことを要請。国連人種差別撤廃委員会は昨年8月、日本政府に人種差別を禁じる法律の制定を勧告し、ヘイトスピーチの規制、アイヌや琉球・沖縄の先住民の権利保護などを求めている。
 ◆米国では社会的制裁も
 日本と異なり、欧州の主要国はヘイトスピーチを法律で規制している。米国にはヘイトクライム(差別や偏見に基づく犯罪)を防止する法律がある。
 ナチスによるユダヤ人の大量虐殺(ホロコースト)を許したドイツは、刑法に民衆扇動罪を設け、ヘイトスピーチを厳しく規制している。ホロコーストの事実を否定したり、公衆の面前でナチズムを賛美したりする言動も禁じており、違反した場合は最高5年の禁錮刑などが科される。
 英国も公共秩序法などでヘイトスピーチを規制。肌の色や民族的な出自でまとまった集団を憎む言動、行為を犯罪と定める。
 風刺文化が根付いているフランスにも人種差別禁止法がある。人種、民族、宗教、性に関して、公の場で差別的発言をしたり、差別をあおったりすれば、高額の罰金や懲役刑が科されることもある。
 米国は言論の自由を制限する法制定を憲法で禁じているため、ヘイトスピーチを取り締まる法律はない。だが、公民権法で人種差別を禁じており、地位のある人物が差別的発言をした場合は社会的制裁を受けることが多い。
 昨年、プロバスケットボールチームのオーナーが黒人差別の発言をした際は、スポンサーが相次ぎ撤退。米プロバスケットボール協会は終身追放処分を下し、オーナーはチームを売却した。
=2015/11/24付 西日本新聞朝刊=

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