ヘイトスピーチ救済進まず 電話相談
ヘイトスピーチ救済進まず 電話相談…法務省にがっかり
2015年4月27日18時18分
http://digital.asahi.com/articles/ASH4Q6SNMH4QOIPE02T.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_ASH4Q6SNMH4QOIPE02T
外国人差別をあおるヘイトスピーチを巡り、被害者の人権救済が進まない。制度を変えないまま、法務省が啓発ポスターなどで電話相談をPRした結果、かえって利用者を落胆させる事態も起きている。
■職員「現行法では対応できない」
今月上旬、埼玉県在住の在日朝鮮人3世の30代男性は、インターネットの差別的な書き込みの削除を法務局に相談。応対した職員は「現行法では対応できない」と話したという。男性は「相談を呼び掛けているから電話したのに、がっかりした」と嘆いた。
「朝鮮人を追放しろ」などと主張する排外主義的なデモが各地で起きていることを受け、法務省は昨年11月、啓発活動の実施を発表。「ヘイトスピーチ、許さない。」とうたうポスターを作り、電話相談「みんなの人権110番」をPRした結果、相談は急増。同省人権擁護局によると、ヘイトスピーチ関連の相談件数を把握し始めた2013年2月以降、計93件が寄せられ、うち76件が昨年11月以降だった。
ところが解決や救済を求める相談者に対し、「啓発」にとどまる同省の対応は、逆に期待を裏切る結果となっている。
「差別デモが怖い。やめさせて」と相談した東京都在住の40代韓国籍の男性は、「啓発で社会の人権意識を高めることしかできない」と伝えられたといい、「『啓発以上のことはしない』と言われている気がした」と落胆を隠さない。ネット上のデモ動画の削除を相談した別の女性は、「人権を守るには当事者の頑張りが重要」と逆に説かれたという。
■不特定集団への攻撃は適用外
相談を受けても救済手続きに踏み切れない背景には、現行制度の問題がある。国籍などを侮辱する言動があっても、特定個人や団体への攻撃だと認められなければ、救済対象にならないからだ。
ヘイトスピーチは、人種や民族などの集団への差別をあおる侮蔑的表現を指す。1965年に国連総会で採択された人種差別撤廃条約は第4条で、こうした扇動に法の処罰を求めている。日本は95年に条約に加わったが、言論を萎縮させる危険を冒してまで立法を検討する状況にはないとの立場で、条約の一部に留保をつけた。
国内法では、ヘイトスピーチに特定個人や団体をおとしめる内容があれば、刑法の名誉毀損(きそん)罪や侮辱罪などになりうる。ただ、「韓国人」などの不特定の集団では適用が難しいのが現状だ。
一方、司法制度とは別に法務省は、相談を受けた法務局職員やボランティアの人権擁護委員が調査し、人権侵害が判明すれば勧告などの措置がとれる人権救済制度を設けている。強制力はないが、捜査や裁判と比べて簡易手続きで自主改善を促せる。ただ、「司法手続きでも違法となりうる行為」が救済対象で、国内法同様にヘイトスピーチ被害は対象になりにくい。
同省は「精緻(せいち)に対応できる職員」を各法務局に置く方針だが、救済対象の拡大には直結しない。同省担当者は「特定個人に関わらない場合、今後も啓発に力を入れていくことを説明することになる」と話す。
■弁護士「法整備が必要」
《ヘイトスピーチ問題に取り組む師岡康子弁護士の話》 相談を受ける職員ら個人ではなく、制度の問題だ。ヘイトスピーチは実害をもたらしており、啓発だけでは解決できない。法務省の人権救済制度は、関係者の協力に基づく任意調査が前提。加害者が確信的な場合、実効性を持ち得ないことは、2001年の人権擁護推進審議会答申も指摘している。ヘイトスピーチはまさにこのケース。国は人種差別撤廃条約に基づき、差別を終了させる義務を負う。ヘイトスピーチを違法とする法整備が必要だ。
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