« 雰囲気「迎合」が言論の衰退招く 青山学院大学特任教授・猪木武徳 | トップページ | 安倍首相がヘイトスピーチ新法に慎重姿勢 »

2月16日急逝された鈴木良さん。19日告別式。

第36巻第1号 『立命館産業社会論集』 2000年6月   
http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/ss/sansharonshu/361pdf/saisyu.pdf

鈴木良先生のご退任にあたって
産業社会学部長 篠田 武司

鈴木良先生のご退任・最終講義にあたりましてひとことご挨拶申しあげます。
鈴木先生は1934年9月にお生まれになり,高等学校は神奈川県,そのあと京都大学文学部,京都大学大学院博士課程へとおすすみになりました。
63年に奈良女子大学文学部付属高等学校に俸職され,その後約21年間,高校教師としてすごされました。
立命館大学産業社会学部には,1985年に教授としてご赴任をされました。それ以来今日まで15年に渡って産業社会学部で「社会史」という重要な科目を担当してこられました。この間,学会関係として日本史研究会,歴史学研究会,歴史科学協議会に所属されながら,先生は近代日本社会の諸問題を社会史的手法で分析すること,あるいは近代日本の社会の成立と発展を歴史的に分析すること等をテーマにして研究を続けてこられました。
先生は多くの著作を出しておられ,たくさんの論文を書かれております。
代表的なものとして『近代日本部落問題研究序説』『奈良県の百年』『西園寺公望傳』などがあります。また,学術情報研究データベースで検索しますと先生は実に多くの論文等を書かれています。
「遠山史学に学ぶもの」「近代京都における自由主義思想の源流」「真宗教団批判の展開」「文化財の誕生」「歴史教育の現状と課題」等々です。
しかし,やはり先生の研究の中心をなすものは部落問題の研究であると思います。そして,それが同時に実は天皇制の研究でもあることが先生の研究の特徴であるかと思います。こうした特徴をもつ先生の研究活動は学会で大きな研究成果を残されたと思います。
先生は大学生時代,日清・日露戦争当時の国際関係を勉強されました。高校の先生になって以降,生徒に部落問題について尋ねられ,それを学習されるなかで日本の近代史は部落問題を抜きにして決して語れないということに気づかれ,深く部落問題の研究に入られました。その後,実に多くの方々のインタビューをされ,さまざまな論文を上梓されています。
先生の部落問題の研究の特徴は二つあると思います。
一つは部落問題を抜きにして近代の日本の歴史は語れないということ,近代日本の歴史の真実は部落問題の中にあると部落問題をとらえられたということです。
もう一つは部落問題そのものについて,画期的な視点を提唱されたということです。
部落問題はそれまで,経済還元主義,政治還元主義の上にたって考えられてきました。戦前には政治構造が,戦後には独占資本が差別構造をつくり出した元凶であると研究されていました。しかし,部落問題から歴史を見るのではなく歴史から部落問題を見ていく,部落問題はそういう形でとらえられなければならない,というのが先生の研究の姿勢であったと思います。それまでの部落問題の研究を一段と高い次元で展開されたという点では大きな功績を研究の上で残されたと思います。
もう一つ大事な点があると思います。人間を等しく認める,人間の権利を守ることの重要性という視点から近代史を見る,あるいは部落問題を考えなければならない,こういう目線が鮮明にあることが先生の研究の特徴ではなかったかと思います。

今日の最終講義をお聴きになる学生諸君,物事をみる場合の目線として人間をいとおしむ目線,これから諸君が何かを学ぶ場合,こうした目線を大事にしていただきたいと思います。もちろん我々研究者も引き継いでいきたいと思います。

最近,先生は『歴史の楽しさ,―地域を歩く』という本を上梓されました。私,この本のタイトルの「歴史の楽しさ」ということはどのような意味なのかで悩みました。歴史そのものが楽しい。歴史を学ぶことが楽しい。素直に,ひとまずはそう受けとれそうです。しかし,そうではなさそうだ。私には歴史を学ぶという自分が楽しい,と解釈した方が先生の場合,納得がいきます。それは,先生は実に学問を楽しそうにお話されるからです。先生は学問を楽しまれている。この本は,実は歴史を楽しんでいる先生の楽しさを我々に伝えようという思が込められた本だと思います。

私共同僚は,先生から多くのことを15年間のお付き合いの中で学んできました。先生は講義に熱心でした。また学生ばかりか,私達にもいつも学問とは何であるのかということを教えていただきました。最終講義を迎えるに当たって,これからは,こうした機会が減ること,大変寂しい思いでございます。先生はまだまだお元気です。先生は,「我ながら凡庸な研究者である。自信を持てることはない。未だかけだしの研究者であることをよく自覚している。少し自信の持てることといったら,知らないことに挑戦するのが大好きで好奇心が旺盛なことくらいだろう」と,本の中で語られています。知らないことに挑戦することが大好きで好奇心が旺盛だと,このお年になってさらりと言ってのける先生のすばらしさを思います。ご退職になった後も,後輩に対して引き続きご指導をいただくことを心からお願いしまして先生のご紹介に代えさせていただきたいと思います。

|

« 雰囲気「迎合」が言論の衰退招く 青山学院大学特任教授・猪木武徳 | トップページ | 安倍首相がヘイトスピーチ新法に慎重姿勢 »

つれずれ」カテゴリの記事