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刑法で処罰するのは最も深刻な場合に限るべき 元国連人種差別撤廃委員

発言・海外から:ヘイトスピーチの法規制 パトリック・ソーンベリー、元国連人種差別撤廃委員、英キール大名誉教授

毎日新聞 2014年11月26日 東京朝刊
http://mainichi.jp/shimen/news/20141126ddm004070031000c.html

 「人種差別撤廃条約」が国連総会で採択されて来年で50年になる。民族的少数者ら社会的少数派への憎悪をあおる「ヘイトスピーチ」を法律で禁じるよう求める条約だ。スピーチ(言論)という言葉が少し誤解を与えているようだが、ヘイトスピーチの真の問題は、語られる言葉そのものではない。差別の扇動が社会にもたらす影響にこそ危険がある。ナチスドイツによるユダヤ人大虐殺もそうだ。人種主義的な扇動がジェノサイド(大虐殺)をもたらした。こうした例が歴史にある。

      

 だから、ヘイトスピーチの禁止は単なる「言論の自由」の規制ではない。表現の自由とのバランスは大事だが、ヘイトスピーチが社会的少数派から自由な言論を奪ってしまうという実態がある。多数派は、社会における力関係を利用して少数派を一方的に傷つけ、沈黙させるからだ。

 どんな国でも完全な表現の自由は存在しない。タブーというものがある。児童ポルノであれ、ジェノサイド扇動であれ、社会の調和を乱す表現にはおのずと線引きがなされてしかるべきだ。

 その際、あいまいな規定で規制するのは問題だ。明確かつ適切な境界線を引く努力を続けなければならない。

 差別的な表現でも、聞いた人が気分を害するだけなら処罰の対象とする必要はない。だが、人間の尊厳を踏みにじったり、(特定の人種や民族グループについて)「社会に居場所がない」などと公言したりするのは許されない。法規制の対象とするかどうかの判断は、そうした言動がどのような文脈でなされたかが大事だと強調したい。その国や地域における過去の歴史も判断の上で重要な要素となる。

 人種差別を禁じる法を制定し、刑法や民法を組み合わせた法的枠組みを作る必要がある。刑法で処罰するのは最も深刻な場合に限るべきだ。

 法規制が逆に社会的少数派の抑圧につながったり、正当な抗議の制限に使われたりするのも防がねばならない。そのためには、実際に法を運用する裁判官や警察への教育が非常に重要となる。国際的な人権基準を含む教育はメディアにも必要で、市民が言論によってヘイトスピーチに対抗するのも大事だ。法律を作れば問題が解決されるわけではない。そこから差別をなくす取り組みが始まるのだ。【構成・小泉大士】




くらしなるほドリ:ヘイトスピーチってどういう意味なの?
http://mainichi.jp/area/news/20141127ddn041070012000c.html
毎日新聞 2014年11月27日 大阪朝刊

 

 なるほドリ ヘイトスピーチという言葉をよく聞くけど、どういう意味?

      

 記者 特定の人種や民族、宗教への差別や憎悪をあおる言動の総称です。ネット上の差別的な書き込みのほか、東京・新大久保や大阪・鶴橋で在日韓国・朝鮮人を中傷するデモが繰り返され、社会問題になりました。

 Q ヘイトスピーチをした人は罰せられないの?

 A 特定の団体などを攻撃する場合は侮辱罪や強要罪で有罪になったケースもあります。不特定多数を標的にする場合、ヘイトスピーチを直接規制する法律はありません。

 Q 海外ではどうなの?

 A 第二次世界大戦でのナチスによるユダヤ人大虐殺の経験などを踏まえ、欧州では法規制をしている国が多くみられます。

 Q 日本でも規制の動きはあるの?

 A 大阪市は9月から対策を検討しています。今回の衆院選でも民主党などが法規制を公約に掲げています。ただ、憲法が保障する「表現の自由」に触れる恐れもあるため慎重意見も強く、活発な議論が求められます。

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