ヘイト・スピーチと法規制 師岡 康子
ヘイト・スピーチと法規制
国連人種差別撤廃委員会勧告の意義
師岡 康子
http://www.alter-magazine.jp/index.php?%E3%83%98%E3%82%A4%E3%83%88%E3%82%B9%E3%83%94%E3%83%BC%E3%83%81%E3%81%A8%E6%B3%95%E8%A6%8F%E5%88%B6
「ゴキブリチョンコを日本から叩き出せ~!」ヘイト・スピーチは拡大しつづけている。
2013年以降、インターネット上で判明しているだけでも、東京、大阪、京都、名古屋、札幌、福岡など全国各地のどこかでほぼ毎週末、年360件以上、差別デモ、差別街宣が行われている。(「のりこえねっと」調べ)。
ヘイト・スピーチは国際社会共通の問題だが、日本の問題は、人種差別撤廃条約及び自由権規約の締約国であってヘイト・スピーチを法規制する法的義務がありながら、規制法がなく、特に不特定多数の集団にむけられた場合の規制手段がなく、逆に表現の自由として保護されていることである。差別デモ、差別街宣のための道路使用は許可され、差別デモは、参加者の何倍もの数の警官によって守られ、カウンター側はプラカードを掲げることも抑止されたり、微罪で逮捕されている。現行法が恣意的に運用されているのである。
他方、ヘイト・スピーチは2013年にはじめて社会問題化し、差別街宣を人種差別と認めた京都朝鮮学校襲撃事件地裁・高裁判決jリーグによる差別に対する厳しい処分、2014年7月の国連自由権規約委員会によるヘイト・スピーチ法規制勧告もあり、国会が具体的な対策に動き出すに至った。2014年4月には自民党を除く超党派の「人種差別撤廃基本法を求める議員連盟」が、8月には自民党の、9月には公明党のヘイトスピーチ問題対策プロジェクトチームが発足した。
しかし、第一回自民党PTでは、国会前デモを規制対象として検討するとの発言が出た。ヘイト・スピーチとは民族、国籍などの属性におけるマイノリティの集団もしくは個人に対する、属性を理由とする差別煽動表現であり、国会前デモはいかなる意味でもヘイト・スピーチとは無関係である。
8月末に発表された、人種差別撤廃委員会の日本に対する勧告では、ヘイト・スピーチ規制の目的がマイノリティの権利を守ることであり、マイノリティの表現活動や不正義への抗議などの表現活動を規制する口実に使われてはならないとの原則を明示した。ヘイト・スピーチについてはこれまでの2001年、2010年の審査でも法規制の必要性は勧告されてきたが、ヘイト・スピーチ規制の目的と濫用防止については、今回の総括所見ではじめて指摘されたことであり、今回のヘイト・スピーチに関する勧告の最も重要な部分である。
自民党PTにおける国会デモ規制発言は、まさにヘイト・スピーチ規制を不正義への抗議などの表現規制の口実にするものであり、勧告に真っ向から反するものであり、許されない。
出発点でこのような過ちが是正されたことをむしろ活かして、今後は濫用に陥らないよう、勧告の求める原則に厳密に従った対策に取り組むべきである。勧告では、直接のヘイト・スピーチ規制の前提として、まず差別を違法とする包括的な人種差別禁止法の制定、そのための差別の実態調査を求めている。マイノリティの権利保障及び濫用防止のためにもそこから出発すべきだろう。 (弁護士)
注)この原稿は9条連ニュース238号より転載し著者が加筆したものです。
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