ヘイトスピーチ規制について
基調報告「第10回島根集会の課題と地域人権運動の提起」(一部)
全国人権連事務局長 新井直樹
第4 私人間への国家の介入が及ぼす影響について
2013年10月7日に朝鮮学校の周辺で街宣活動し、ヘイトスピーチ、憎悪表現と呼ばれる差別的な発言を繰り返して授業を妨害したとして、学校法人京都朝鮮学園が「在日特権を許さない市民の会」(在特会)などを訴えた訴訟の判決で、京都地裁は、学校の半径200メートル以内での街宣禁止と約1200万円の賠償を命じました。(高裁も同様)
裁判長は、街宣などを「在日朝鮮人への差別意識を世間に訴える意図があり、日本も批准する人種差別撤廃条約で禁止した人種差別に当たり、違法だ」と指摘。「示威活動によって児童らを怖がらせ、通常の授業を困難にし、平穏な教育事業をする環境を損ない、名誉を毀損した」として、不法行為に当たるとの判断を示しました。これは極めて妥当な判決です。
1,部落問題に係わる「差別の法規制」について(「地対協意見具申」1986年)
-4 差別行為の法規制問題-(以下引用)
差別行為は、もちろん不当であり、悪質な差別行為を新たな法律で規制しようという考え方も心情論としては理解できないわけではないが、政策論、法律論としては、次のような問題点があり、差別行為に対する新たな法規制の導入には賛成し難い。
(1)~(3)略
(4)結婚や就職に際しての差別行為を処罰することについては、憲法上保障されている婚姻、営業等の自由との整合性が確保されなければならない。結婚差別については、それを直接処罰することは、相手方に対して意に反する婚姻を強制することにもなりかねず、憲法に抵触する疑いも強いと考えられる。また、就職差別を直接処罰することについては、現行労働法体系は、企業に対して採用時における契約の自由を認めており、求職者の採否は、企業がそのものの全人格を総合的に判断して決めるものなので、採用拒否が同和関係者に対する差別だけによるものと断定して法を適用することは、極めて困難と考えられる。
(5)差別投書、落書き、差別発言等は、現刑法の名誉毀損で十分対処することができる。対処することができないもの、例えば、特定の者を対象としない単なる悪罵、放言までを一般的に規制する合理的理由はない。特に悪質なものを規制するとしても、その線引きを明確にすることは著しく困難である。
(6)立法上必要とされる「部落」、「同和地区」、「差別」等の用語については、行政法規において定義することは可能であると考えられるが、刑事法規に必要とされる厳密な定義を行うことは難しく、明確な構成要件を組み立てることは極めて困難である。
このように、部落問題にかかわる法規制については極めて妥当な議論が行われていた。
2,差別の法規制の問題
差別を煽る不当な言論表現を含む行為は、その影響や被害の実態からも、もとより許されるものではありません。
国連自由権人権委員会や人種差別撤廃委員会がこの夏に日本政府へ示した「見解」が、これらヘイトスピーチの規制を打ち出したこと等の動向を捉え「人種的差別撤廃法」等の法制定を呼びかける人たちがいます。
やはり言論は言論で対抗することが原則です。
憎悪犯罪の規制と正当な言論表現の擁護に関わる問題は、より慎重であるべきです。
正当なデモでさえ規制の網をかけようとする自民党の動向もあり、現状では新規立法についての検討も視野に、現行法などでの規制を先ず検討すべきです。
私たちは人権擁護法案、人権救済法案、人権委員会設置法案でも一貫して言論表現の自由の擁護、真の被害者救済の立場をとってきました。今後もこの立場を貫きたいと考えています。
秘密保護法など、国民の知る権利を奪い、国家が情報を都合の良いように操作し扱う、憲法を無視した法の具体化に対して断固反対の立場で運動を進めてゆくものです。
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