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地方紙の未来 脆弱な首都圏の地域情報発信

地方紙の未来 脆弱な首都圏の地域情報発信

2013年11月8日
田部康喜

http://www.bener.co.jp/blog/media/post1434/

首都圏の代表的な地方紙である「神奈川新聞」が政治・経済などの総合面を中心として、かつてない紙面改革をしたのは、9月のことである。横須賀、横浜、川崎などの地域面の写真はオール・カラー化した。

 茨城県土浦市を拠点とする「常陽新聞」が経営破たんして、65年の歴史に幕を下ろし廃刊してから、2カ月余りがたつ。茨城県の地域情報の発信を担う地元新聞は、「茨城新聞」1紙になった。

 茨城県の県南地方のニュースを中心としながらも、県全体のニュースも網羅していた「常陽新聞」のような地方紙は、第2県紙と呼ばれる。

「神奈川新聞」と「常陽新聞」のふたつの首都圏の地方紙の挑戦と挫折から、地方紙の将来のありようがみえてくる。

 地方紙と地域紙の定義について、販売地域の規模や部数に基準があるわけではない。北海道新聞、中日新聞、西日本新聞をブロック紙という。都府県の単位でカバーしているのが地方紙、中小の都市を拠点としているのが地域紙とおおざっぱにはいえるだろう。

 これらのブロック紙と地方紙、地域紙が、ある地域のなかで競争を繰り広げている。全国紙がその競争に加わっているのはもちろんである。ブロック紙と地方紙が、「東京紙」と呼んでライバル視する。

 「神奈川新聞」のリニューアルをみていこう。10月23日付の朝刊である。

 1面トップは、「核不使用 日本が初参加」。国連の核不使用声明に日本が加わったニュースである。ページの左肩部分に、秘密保護法案について与党が了解した記事があり、中央には伊豆大島の土石流に関する記事がある。

 今回のリニューアルの目玉とされているのが、「論説・特報面」である。社説を左側にすえて、右側を大きく使って、横浜の女児童の虐待死亡事件から半年後を振り返る特集記事がある。

 首都圏の新聞の厳しい競争で、生き残りをかけて「神奈川新聞」が選んだ道は、全国ニュースと地元ニュースのふたつのバランスであった。

 「常陽新聞」が廃刊直前まで取り組んでいたのは、地元の霞ケ浦に関する調査報道であった。福島第1原発の事故による放射性セシウムが流れ込んでいる実態を報じた。地元ニュースに特化した報道姿勢で経営の活路を求めた。

 しかしながら、部数の減少に歯止めがかからなかったばかりではなく、地元商店街などの不振から広告収入も落ち込んで、倒産に追い込まれた。

「東京紙」の後背地にあり新聞競争の激戦区である首都圏において、地方紙の経営は、難関にさしかかっている。

「神奈川新聞」はかつて、年間売上高100億円企業だったが、今年3月期では81億円余りになっている。埼玉新聞は21億円余り、千葉日報は25億円余りである。

「東京紙」と地方紙の併読から、どちらかを選ぶかあるいはいずれも購読を止める家庭が増加している。新聞と雑誌、書籍などの印刷物への1世帯当たりの年間支出の動向をみると、全体では1994年に6万円近くあったのが、2012年には4万円を超える水準まで落ちている。

 新聞についてみると、2003年の3万4522円から、2012年には2万9646円に下がっている。

 一般紙の総部数は、2001年がそのピークで、4755万部あった。2012年には4372万部と400万部以上も落ちている。

 ブロック紙や県紙、地域紙が健全な経営を保っている地域は、情報発信の担い手がいる。しかしながら、「東京紙」が地方紙や地域紙の牙城を揺るがしている、首都圏はどうか。

「東京紙」の地方版すなわち首都圏版のありようをみれば、地域情報がほとんどないといってもよい状況は明らかである。永田町の政治や霞が関の官庁の動きに記者の大半が割かれている結果である。

 わたしが新聞記者として歩み始めた35年前の佐賀県は、ブロック紙の「西日本新聞」と地元の「佐賀新聞」が激しく争い、福岡を本拠とする「フクニチ」もあった。これに「東京紙」の九州に向けた西部版が加わって、地域ニュースをめぐる競争があった。

 過去の感傷に浸っているのではない。列島のなかで、首都圏は「地域情報の過疎地」という際立った位置にあることをいいたいのである。

 戦後の高度経済成長のなかで、列島の各地から民族の大移動のような人の流れが、首都圏に至った。それらの人々の大半は帰るべき故郷もなく、子孫たちは、ここで生まれいずれここで死んでいくのである。そうした人々に対する地域情報が決定的に不足している。

 埼玉新聞の10月18日付朝刊のトップ記事は、「イヌ・ネコ飼育 条例化 県、10匹以上届け出制」である。経済面を開けば、地元の木工職人がラオスで職業訓練をNPOと一緒にやっていることが記事になっている。「川越まつり」の特集は3ページにわたっていて、祭りに参加する山車がすべて写真入りで紹介されている。

 千葉日報の同日付朝刊のトップは、地元の千葉大学が来年秋から、高校3年生の卒業をまたずにその秋から入学できるようにする、という記事である。題字の横の欄外に青字で大きく「釣り情報掲載」と銘打って、釣りの特集ページは、海と川のそれぞれの釣り場情報が満載されている。

 首都圏の地方紙の生き残りをかけた地域情報の掘り起こしの挑戦は続く。地域情報の過疎地に住んでいる人々がこうした情報に紙ばかりではなく、ネットを通じて接触できるようになり、それによって、ニュースの配信元に利益がもたらされる仕組みづくりが待たれる。


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