:軽んじられた少年法=山田健太
月いち!雑誌批評:軽んじられた少年法=山田健太
毎日新聞 2013年03月23日 東京朝刊
http://mainichi.jp/feature/news/20130323ddm012070009000c.html
「週刊新潮」3月14日号は、少年法違反の疑いがある、との理由から一部の書店で取り扱い中止となった。同誌は、東京・吉祥寺での強盗殺人事件の容疑者として2人の未成年の実名・顔写真を掲載したが、同日発売の「週刊文春」も仮名で目の部分を黒塗りした顔写真を掲載している。この両社、過去にも同様の扱いをして裁判でも争われ、いずれも出版社側が勝訴した経緯がある。そこで週刊新潮は、自社の判決を記事の冒頭に引用し「事件が社会の正当な関心事であり、凶悪、重大であれば実名報道が是認される」のであって、まさに今回の事件がそれに該当するとした。確かに、少年に「報道されない権利」があるかどうかは議論があるところだし、少年法61条の特定できる報道の禁止規定が憲法違反との見解も存在する。しかし、少年の社会的更生のため表現の自由の例外規定として、報道界が尊重し、定着している報道ルールであることも事実だ。しかも先の判決では、凶悪重大な事件で現行犯逮捕されたような場合に、直ちに少年の権利侵害とはならない、と述べており、実名報道を書く側の主観的判断によって全面的に正当化するものでないことは明らかだ。実名記事の筆者が匿名な点にも違和感がある。
この2誌は橋下徹大阪市長に対する差別表現でも、同じ路線を歩んでいる。2011年11月の発行号で両誌は、橋下氏の出自を暴くことで人格攻撃をした。現行法の下で、差別表現は個人を特定する名誉毀損(きそん)や侮辱表現を除き罰せられない。しかも公人についてはその批判の対象は格段に広く解釈されている。しかし、当人がいかんともしがたい事実(たとえば出自)などを理由とした人格否定は、報道倫理として許されない範疇(はんちゅう)のものであり、だからこそ差別表現が厳しい自主規制の対象であったわけだ。いわば2誌は、こうした「法の規制がない」ことを利用し、しかも差別や少年顔写真で読者の歓心を買う商売をしていることになる。今回の週刊新潮の見出しは「『未成年ペア』肖像写真と荒廃家庭」で、記事も3ページにわたり、2人がいかに不良少年かを書くことで、実名顔写真の正当性を強調している。だが、こうした人権感覚に基づく記事作りは自由の誤った発露であり、自らの社会的存在価値を貶(おとし)めるものにほかなるまい。=専修大学教授・言論法
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