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布川事件再審 控訴断念、無罪が確定

2011年6月8日(水)
布川事件再審 控訴断念、無罪が確定
「新たな立証困難」と地検

http://www.ibaraki-np.co.jp/news/news.php?f_jun=13074563028287

利根町布川で1967年8月、大工の玉村象天さん=当時(62)=が殺害され、現金を奪われた布川事件で、強盗殺人罪などで無期懲役が確定、その後仮釈放された桜井昌司さん(64)と杉山卓男さん(64)に再審無罪を言い渡した5月の水戸地裁土浦支部判決について、水戸地検は7日、控訴を断念したことを明らかにした。控訴審で新たな立証をするのは困難と判断した。2人の無罪が確定。

最高裁や日弁連によると、死刑か無期懲役が戦後に確定した重大事件の再審で、無罪が確定したのは布川事件で7件目。いずれも検察側は控訴しなかった。

水戸地検の猪俣尚人次席検事は「判決の事実認定に違和感を覚える点があるが、事件は40年以上が経過し、補充捜査をしても覆す見込みはないと判断した」と、理由を述べた。

弁護側が指摘した自白の強要については「検察として捜査は適法に行われたと認識している」と述べた。2人が強盗殺人罪で長期間服役し、無罪判決が確定したことに対しては「厳粛に受け止めている」とした。

5月24日の判決公判で、神田大助裁判長は2人の犯行を示す客観的証拠が存在しない点を指摘。確定審で有罪判決の決め手となった自白調書を「捜査官らの誘導で作成された可能性を否定できない」としていた。

検察側は再審公判で「逮捕後、短期間のうちに自白に至っている。取り調べに不当な点はなかった」と主張していた。





布川事件「控訴」か「断念」か 検察当局、意見真っ二つ
2011.6.7 21:34
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110607/trl11060721340011-n1.htm

 戦後、死刑か無期懲役が確定した事件の再審無罪判決で、検察側が控訴した例はなく、布川事件も前例を踏襲した形になった。だが検察内部では、弁護側の「新証拠」の判断をめぐり、ぎりぎりまで「控訴か否か」の議論が続いた。

 水戸地検は判決後まもなく、控訴断念の方針を固めた。しかしその後、検察内部で、弁護側が2人の無罪を示すと主張し、再審開始の決め手にもなった「被害者宅前にいた男は杉山さんと違う人物だった」とする目撃女性の証言をめぐって意見が分かれた。

 水戸地裁土浦支部は判決で、女性の証言内容が変遷していることなどから「全面的に信用するには一定の躊躇がある」と結論づけた。証言の信用性が完全に認められなかったことで、一部から「控訴も視野に入れるべきだ」との声が上がった。

 最高検で対応を協議したがなかなか結論が出ず、判断は7日午後まで持ち越された。「一時は控訴か断念か幹部の意見が半々だった」(検察関係者)が、新たな立証が困難なことを理由に、結論は結局「控訴断念」になった。検察幹部は「新証拠がなければ控訴審でひっくり返すのは難しい」と話した。






記者の目:布川事件 44年かかった再審無罪=原田啓之
http://mainichi.jp/select/opinion/eye/news/20110601k0000m070160000c.html
 本質には触れない肩すかしの判決だった。茨城県利根町布川(ふかわ)で67年に起きた強盗殺人・布川事件の再審無罪判決(5月24日、水戸地裁土浦支部)は誤判の原因追及を怠った。裁判の「やり直し」に徹し、当時の捜査や裁判を断罪することは避けたのだ。この事件を担当して2年近く。やってもいないことを「自白」してしまう密室の誘導・強要の恐ろしさ、そしてその「自白」を覆すことの難しさに思い至る。冤罪(えんざい)防止には、取り調べ全過程の録音・録画(全面可視化)など刑事司法制度改革が必要だと改めて痛感する。
 ◇密室での「自白」 強要の恐ろしさ

 判決を受けた桜井昌司さん(64)と杉山卓男(たかお)さん(64)は無期懲役が確定して服役し約29年も自由を奪われた。確定判決の主な根拠は捜査段階での自白だ。再審判決は一転して「2人の供述に多くの食い違いがある」などと信用性を否定し無罪とした。裏付ける物証は当初からなく、神田大助裁判長は自白の信用性・任意性の判断に関し「慎重な姿勢で臨むことが強く求められる」と述べた。ごくささやかな確定判決批判と言えよう。

 やってもいないことを自白するはずがない--。過去の裁判官のように、私も09年夏に担当し始めた頃は同じ感覚だった。既に1、2審で再審開始決定が出ていたが、初めて自白調書を読んだ後は「本当にうそなのか」と思った。

 2人を直接取材した。桜井さんは別件逮捕後に布川事件で追及された。アリバイを否定され、深夜まで「母ちゃんも早く話せと言っている」と迫られた。ポリグラフ検査後に刑事から「全部うそと出た」と言われ、絶望して自白。桜井さんの調書を示された杉山さんは「謝らなければ死刑になる」と脅され、刑事に誘導されるがまま見たこともない現場の様子を自白した。

 にわかには信じがたい、と正直思った。だが取材を重ね、考えが変わっていく。

 10年3月、取り調べに立ち会った元検察事務官に当時の様子を尋ねた。検事は机をたたき、否認に転じた杉山さんを怒鳴り上げた、という。「検事は“仏”と呼ばれていた人。自白を無理強いしたこともない」とも言った。おかしい。「机をたたく」「怒鳴る」は強要以外の何物でもない。

 そのすぐ後、同様の冤罪事件である足利事件の再審判決の取材を手伝った。無罪になった菅家利和さんは事情聴取初日に「自白」したと知った。布川も同じではないか。その考えは、再審公判結審後の今年1月、東京拘置所内で70年代に2人が交わした往復書簡を読み、確信に変わった。

 桜井さんは杉山さんに<(近所の食堂に被害者を)尋ねた二人組がおったって(略)こいつらが犯人でなくて、誰が犯人だと言いたいね>と持ちかけ、<嘘(うそ)の自白をした理由を説明するの難しいね>と、支援者の理解を得られない悩みを漏らした。4年半で319通。「真犯人」が有罪回避のためにわざわざ交わしたとはとても思えない。

 1審の裁判長は法廷で自白テープを聞き「経験したことでなければすらすら答えられないじゃないか」と2人に迫ったという。杉山さんは「裁判長は予断を持っていた」と今も怒る。このテープは捜査側に都合のよい一部だけが録音されたものだった。

 08年に東京高裁裁判長として再審開始決定を出した門野博法政大大学院教授は「日本は取り調べが可視化されておらず、実情が分からない。捜査官が作成したメモなどの資料から判断するには限界がある」と指摘する。

 全面可視化すれば、密室での自白強要を防ぐことができるだろう。一部事件で試行が始まっているが、警察・検察を問わず全面可視化を原則とする制度を求めたい。
 ◇証拠リストの開示も必要 

 検察側の証拠隠しも問題だった。布川事件再審開始の決め手になった「別人を見た」という近所の女性の供述調書は20年近く開示されなかった。捜査に携わった別の元検察事務官は「一般論」として、「殺人事件では見立てとは違う人物像を示す証言も出る。消極証拠は誰にも見せないのが普通だった」と言った。恣意(しい)的な扱いに声も出ない。

 2人を弁護した佐藤米生弁護士は「捜査本部と弁護士では証拠の収集能力が違いすぎる。検察側の手持ち証拠のリスト開示が必要」と言う。リスト開示は今の刑事訴訟法では義務ではない。04年の同法改正前に議論されたが「捜査に弊害が生じる」との意見に押し切られた。

 虚偽自白の背景を探り、再発防止策を語る機会を、再審判決が逸したのは残念だ。直前の18日、法制審議会に刑事司法制度改革が諮問された。今後の論議や法改正に布川事件の教訓をいかしてほしい。【阪神支局(前水戸支局)】










社説:布川事件再審無罪 全面可視化、議論加速を
http://www.sakigake.jp/p/editorial/news.jsp?kc=20110525az

 またしても刑事事件の捜査の在り方を厳しく問う判決が下された。1967年に茨城県利根町で男性が殺害された「布川事件」で逮捕、起訴され、78年に無期懲役が確定した桜井昌司さん、杉山卓男さんの2人に、再審判決公判で無罪が言い渡されたのである。

 死刑か無期懲役が確定した事件の再審無罪判決は、戦後に発生した事件では、栃木県で90年に発生した「足利事件」に続き7件目となる。布川事件の2人は逮捕から43年余りでようやく名誉が回復された。とはいえ、失われた日々は戻ってこない。このような不幸なことが二度と起きないよう、警察も検察も裁判所も十分な検証が必要だ。

 無期懲役が確定するに至った公判で、検察側の有罪立証を支えたのは、2人の「自白」だった。再審公判では一転、その自白の任意性や信用性に疑問が投げ掛けられた。水戸地裁土浦支部の裁判長は判決で「捜査官らの誘導により調書が作成された可能性を否定できない」と指摘した。

 裁判長はさらに、現場で採取された指紋や毛髪は、2人のものとはいえないと結論づけた。被害者宅前で2人を目撃したという証人の供述も、信用性に欠けると退けた。検察側が提示した客観証拠はほぼ全否定されたのだ。検察は、この結果を真摯(しんし)に受け止めなければならない。

 再審公判では、自白を証明する取り調べ録音テープの内容が特に問題になった。テープには何カ所か編集した跡があり、供述にも変遷がみられたからだ。検察側は「具体的かつ迫真性がある」と反論したものの、供述の不自然さは拭いようがなかった。

 布川事件は録音テープが検察側に恣意(しい)的に使われる危険性をも浮き彫りにした。取り調べの過程を録音・録画する可視化は司法改革の大きなテーマの一つだが、供述内容を録音したとしても勝手に編集されるのであれば、これほど怖いことはない。

 足利事件で再審無罪となった菅家利和さんは「一部の可視化ではごまかされる」と述べ、全面可視化が必要であることを繰り返し訴えている。冤罪(えんざい)で17年半にわたり自由を奪われた菅家さんの訴えは重い。

 現在、検察改革に向けた議論が進められている。大阪地検特捜部の証拠改ざん・隠蔽(いんぺい)事件を踏まえて昨年秋に発足した法相の諮問機関「検察の在り方検討会議」は、まさにこの取り調べの可視化の在り方を検討中だ。従来の司法制度の在り方を大きく見直す重要な機会であることは言うまでもない。過ちが繰り返されないよう一歩も二歩も踏み込んだ議論が求められる。

 裁判員制度は施行から丸2年を経過した。自白の任意性や信用性は、プロの裁判官でさえ見極めが難しい。ましてや素人の裁判員が判断するのは困難だ。その視点からも、全面可視化の導入が急がれる。
(2011/05/25)

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