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「先住民族」初の国会決議

<アイヌ民族>「先住民族」初の国会決議、衆参両院で採択

2008年6月6日(金)14時5分配信 毎日新聞

 アイヌ民族を先住民族と認定するよう政府に求める初の国会決議が6日の衆参両院本会議で、全会一致で採択された。これを受け町村信孝官房長官は両院本会議で、政府として初めてアイヌを「先住民族」と認識することを表明し、正式な認定に前向きな姿勢を示した。政府は今後、「アイヌ有識者会議」(仮称)を設置し、先住民族と認めた場合の先住権の内容などを検討する方針。アイヌの先住権を認めず北海道開発を優先してきた明治以来のアイヌ政策の転換につながる可能性が出てきた。

 決議は昨年9月に国連で「先住民族の権利宣言」が採択されたことにより、具体的な行動が求められていると指摘。「我が国が近代化する過程において多数のアイヌの人々が差別され、貧窮を余儀なくされたという歴史的事実を厳粛に受け止めなければならない」とし、先住民族としての認定と総合的な施策の確立を政府に求めた。

 これを受け町村長官は「政府としては独自の言語、宗教や文化の独自性を有する先住民族との認識のもと、国連宣言を参照しつつ、これまでのアイヌ政策をさらに推進し、総合的な施策の確立に取り組む」と表明。政府はこれまでアイヌ民族について「先住性」は認めてきたが、「先住民族」との認識を示したのは初めて。

 アイヌの法的位置付けをめぐっては、1世紀近くにわたり差別の根源とされた「北海道旧土人保護法」に代わり「アイヌ文化振興法」が97年に制定されたが、先住民族としての認定は避け、アイヌ語の普及や伝統的な歌や踊りの継承を目的とする内容にとどまった。そのためアイヌで作る北海道ウタリ協会は「先住性」を基に独自の文化や生活の保護・再生を進める総合的な施策の拡充を求めていた。

 同協会の加藤忠理事長は参院本会議を傍聴後、「本当に感動した。これまでのアイヌ民族に対する不正義に終止符を打ち、新たな視点でお互いを尊重する社会づくりの一歩にしてほしい」と語った。【千々部一好】

 ◇解説…国連宣言の「外圧」で動く

 アイヌの先住民族認定へ向け、ようやく国会の意思が一つになった。昨年9月に国連で採択された先住民族の権利宣言、7月にアイヌの先住地・北海道で開かれるサミット(主要国首脳会議)という「外圧」が国会を動かしたとも言える。今後は政府がサミットまでに先住民族認定に踏み切るかが焦点となる。

 決議の動きは国連宣言を受けて始まった。自民党の今津寛衆院議員や民主党の鳩山由紀夫幹事長ら北海道選出議員が中心となり、7月の北海道洞爺湖サミットまでに先住民族認定を実現しようと超党派の議員連盟「アイヌ民族の権利確立を考える議員の会」を3月に結成し、政府と水面下で調整しながら決議の文案をまとめた。

 ただ、政府・自民党内には過去のアイヌ政策を否定することへの抵抗感や、先住権として土地などの財産権、国会議席の民族枠などの政治的権利を要求されることへの警戒感が強い。同会が作成した当初の原案にはアイヌの歴史に関し「労働力として拘束、収奪された」「『同化政策』により伝統的な生活が制限、禁止された」などの記述があったが、自民党内の反発で削除された経緯もある。

 国連宣言は土地権や自決権、教育権など、先住民族の権利として46項目を挙げている。政府は今後、有識者会議で具体的な先住権の中身を検討することになるが、国連宣言に賛成しながらアイヌの先住権を認めない「内と外の使い分け」はもう許されない。【千々部一好】

 ◇アイヌ民族

 北海道や千島列島などに住む独自の文化、言語を持つ民族。かつては主に狩猟や山菜の採取に従事し、明治政府の同化政策で人口が急減したと言われている。北海道庁が06年に行った調査では、道内に2万3782人が居住。北海道ウタリ協会は1946年に「北海道アイヌ協会」として発足したが、アイヌ語で「人」を意味する「アイヌ」の呼称は差別された歴史を思い起こすとして、「同胞」を意味する「ウタリ」を使ってきた。拒否感が薄れたことなどから、来年4月から名称を「北海道アイヌ協会」に変更する。

 ◇アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議骨子

 1 政府は「先住民族の権利宣言」を踏まえアイヌを先住民族として認めること

 2 政府は有識者の意見を聞きながら総合的な施策の確立に取り組むこと

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http://mainichi.jp/select/seiji/news/20080606k0000e040081000c.html

アイヌ民族:苦難の歴史かみしめ…民族衣装で国会傍聴

アイヌを先住民族と認めることを求める決議が参院本会議で採決され、笑顔で握手する加藤理事長(左)ら=国会内で2008年6月6日午前10時18分、武市公孝撮影 アイヌ民族の歴史に新たな1ページが加わった。6日、先住民族認定を政府に求める国会決議が参院で採択された瞬間、色とりどりの民族衣装をまとって傍聴していたアイヌの人たちは笑顔に包まれ、苦難の歴史と未来への希望をかみしめるように目頭を押さえた。多くのアイヌが住む北海道内からも「大きな一歩」と評価する声が上がる一方、いまだに正式な認定に踏み切らない政府への不満や警戒感も広がった。【千々部一好、金子淳、高山純二】

 午前10時に開会した参院本会議の傍聴席では、北海道ウタリ協会や首都圏在住の関東ウタリ会のメンバーら約20人が民族衣装を着て審議を見守った。決議案が全会派一致で採択されると、道ウタリ協会の加藤忠理事長(69)らは仲間と一緒に握手を交わし、喜びを分かち合った。加藤理事長は「本当に感動した。涙が出て止まらなかったが、この涙は苦しい歴史を強いられてきた先祖のもので、これからも頑張っていきたい」と興奮した様子で話した。

 ユーカラ(叙事詩)の研究・伝承に取り組む滝地良子さん(56)は白糠町の勤務先で決議の朗報を聞き「祖父母の時代から求めていたことだから、すごくうれしい」。中村斎・アイヌ民族博物館館長も「これまでのアイヌの苦悩は計り知れない。望ましい決議になった」と評価した。

 アイヌ初の国会議員となった故・萱野(かやの)茂さんの次男志朗さん(50)は「かつて父は『私は苗木を植える。育てるのは後進の人たちだ』と言っていた。少しだけど、苗木が育っている。父もいい方向に向かっていると思うんじゃないかな」と話した。

 評価と歓迎の声の一方で、今後の政府の取り組みには注文の声が相次いだ。先住民族としての認定や具体的な権利確立は、政府が設置する「アイヌ有識者会議」(仮称)で議論されることになる。

 平取町の元町議、貝沢薫さん(71)は「国会決議が骨抜きにならないよう、政府の動きを注意深く見守りたい。今回のチャンスを逃したら、永久にアイヌの権利はなくなってしまう」と警戒する。萱野志朗さんも「このタイミングで決議されるのは北海道洞爺湖サミットがあるからだろう。『ジェスチャー』で終わったら困る」とクギを刺した。

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