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議論の行方は依然、見えてこない

http://mainichi.jp/select/seiji/news/20080204ddm012010047000c.html
人権擁護法案:再提出へ議論再燃 今国会も自民二分、メディア規制は「こだわらず」

 人権擁護法案を通常国会に提出する動きが政府・与党内に出ている。人権侵害を救済するための人権委員会創設を目指すが、メディア規制などをめぐり報道側からの批判は強く、法案をめぐる与党内の評価も真っ二つだ。議論の行方は依然、見えてこない。【佐藤丈一、野口武則、坂本高志、臺宏士】

 ◆保守派「阻止」

 ◇国籍条項に反発、一部に柔軟意見も

 人権擁護法案の再提出を目指す自民党の人権問題等調査会(会長・太田誠一元総務庁長官)は昨年12月、約2年半ぶりに活動を再開した。法案に反対した安倍晋三前首相が退陣したのを機に、推進派の古賀誠選対委員長らが福田政権で復権した。調査会は2月6日から本格的な議論を始める。

 「与党内でもさまざまな議論がなされており、それを踏まえつつ、引き続き真摯(しんし)な検討を行っていく」。福田康夫首相は1月23日の参院代表質問で、そう答弁した。推進派は、この答弁を「反対一辺倒だった安倍政権とは風向きが変わった」と受け止め、党内をまとめれば提出に踏み切れると勢いづく。

 02年5月に発足した調査会は、初代会長、野中広務元幹事長を中心に法案成立を目指したが、取材活動を人権侵害と位置づけたメディア規制条項に報道各社が反対。03年10月の衆院解散を機に廃案となった。

 野中氏から会長職を引き継いだ古賀氏が再提出を目指したが、安倍氏ら保守系議員と対立した。安倍氏らは北朝鮮による拉致問題と絡め、「法案に国籍条項がなく、朝鮮総連(在日本朝鮮人総連合会)関係者が人権擁護委員になれる」「人権侵害の定義があいまいで、拡大解釈される」と反対して提出断念に追い込んだ。

 対立構図は現在も変わらない。中川昭一元政調会長が会長を務める「真・保守政策研究会」は、法案提出阻止の勉強会を予定。若手保守派の「伝統と創造の会」は、「政治活動を萎縮(いしゅく)させる平成の治安維持法だ」(会長の稲田朋美衆院議員)として、執行部への意見書提出を検討している。

 複数の調査会幹部は「法案の成立が第一なので、メディア条項は削除しても構わない」と明言する。「保守派が、反対して見せ場を作ろうとしているだけ。国籍条項は設けてもよい」との声もあり、本格的な議論を前に争点を解消する柔軟姿勢を示唆する。

 公明党は「今国会で成立させたい」(北側一雄幹事長)と前向きだが、国籍条項の設置には消極的だ。

 自民党が法案の再提出を見送った05年8月、民主党は独自の法律案をまとめた。人権委員会を内閣府の外局に設置し、メディアに関しては、自主的な解決に向けた取り組みを努力義務で規定することが柱だ。

 与党審査を経て提出が見込まれる政府案をベースに、付帯条項や見直しなどを求めていくべきだとの声は強い。自民党と民主党の協議では、法務省からの独立性が担保されるかも焦点の一つとなりそうだ。

 ◆見守る法務省

 ◇修正案提示し、異論には配慮

 「国会再提出をめざすべきものと考えているが、与党内でもさまざまな議論があり、ご意見を承りながら真摯に検討を進める」

 同法への法務省の現在の姿勢は、昨年10月の衆・参法務委員会で鳩山邦夫法相が述べた表現に集約されている。再提出への意欲をにじませながらも、与党内の激論が続いている以上、「出すとも出さないとも言えない」(幹部)のが現状だ。

 ただ、これまで一定の見直しの検討は進めてきた。杉浦正健元法相は06年9月、人権擁護委員の選任要件に「地方参政権があること」を追加する修正案を与党側に提示した。自民保守派に根強い「外国人が委員になるのはおかしい」との異論に配慮したものだった。

 また、メディア規制条項について、杉浦元法相は報道被害への包括的な対応窓口の設置を条件に、削除する考えを示した。鳩山法相も、凍結を含むメディア条項の存置に固執する雰囲気はうかがえない。

 政府関係者の一人は、自民党の調査会での議論について「これで合意に至らなければ、法ができる可能性はさらに遠のくだろう」とみる。しかし、同党内の摩擦が収まる見通しは立っておらず、今国会提出への道は険しいとの見方が少なくない。

 ◆「干渉」に反対

 ◇新聞や放送、過熱取材へ対策

 02年3月に政府が国会提出した旧人権擁護法案は、人権侵害を「不当な差別、虐待、その他の人権を侵害する行為」と定義。報道機関による活動も規制対象とし、「過剰な取材」を名目に報道・取材への不当な干渉に道を開いたことが特徴だ。報道活動を狙い撃ちにした法規制は国際的にも極めて異例で、メディア側は「公人取材が制約されかねない」などとして反対している。

 同法案は、国連の規約人権委員会から再三、独立した人権救済機関の必要性について勧告を受けたことや、同和対策事業の柱だった地域改善対策特別措置法が02年3月に失効し、新たな法制定を部落解放同盟などが求めたことが背景にある。

 ところが、公権力による人権侵害の監視という本来の趣旨から外れて、人権委員会を法務省の外局とし、メディア規制条項も盛り込まれたため当初の立法目的はゆがめられた。

 旧法案はいったん廃案となったが、05年に自民党内で、メディア規制条項は凍結することで、新法案提出を構える動きが浮上した。

 しかし、党内からあいまいな人権侵害の定義や、人権擁護委員資格に国籍条項がないなど反対論が出て見送られた。

 日本新聞協会はメディア規制条項に反対するとともに、01年には集団的過熱取材を防ぐための順守事項を定めたほか、02年には「集団的過熱取材対策小委員会」を設置。北朝鮮による拉致被害者取材などに生かされた。NHKと民放は97年に第三者機関として「放送と人権等権利に関する委員会」(BRC)を設け、日本雑誌協会は02年、共通の受付窓口として「雑誌人権ボックス」と名づけた専用ファクスを開設している。

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 ◆人権擁護法案をめぐる主な動き

98年11月 国連規約人権委員会が「最終所見」で、公務員による暴力、虐待の実態を指摘し、政府から独立した調査救済機構の設立を日本政府に勧告。

99年 9月 法相の諮問機関「人権擁護推進審議会」(塩野宏会長)が人権救済機関の検討を始め、00年11月に強制調査権を含む人権救済機関の創設を求める「中間取りまとめ」を公表。

01年 5月 審議会が「人権救済制度の在り方について」を答申。

02年 3月 政府が人権擁護法案を国会提出。地域改善対策特別措置法(時限立法)が失効。法案は11月に参院法務委で審議入りし、法務省はメディア規制条項について凍結する修正に言及。

03年10月 人権擁護法案は衆院解散に伴い審議未了のまま廃案。

04年11月 与党の「人権問題等に関する懇話会」(古賀誠座長)が、メディア規制条項の凍結を含めて見直す方針を決める。

05年 4月 自民党の反対派議員が勉強会「真の人権擁護を考える懇談会」(平沼赳夫会長)を発足させて批判を強める。自民党内の意見がまとまらず、政府は8月、法案再提出を見送り。

06年 4月 杉浦正健法相が、人権擁護法案の再提出に向けた検討チームを省内に設置することを表明。

07年12月 自民党の人権問題等調査会(太田誠一会長)が約2年半ぶりに活動を再開し、今国会での人権擁護法案の提出を目指す。

 (肩書はいずれも当時)

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 ◆旧法案のメディア規制条項の概要

 <救済対象の人権侵害>

 ▽(救済対象者を)報道するに当たり、その私生活に関する事実をみだりに報道し、その者の名誉または生活の平穏を著しく害すること

 ▽(救済対象者が)取材を拒んでいるにもかかわらず、次のいずれかに該当する行為を継続的にまたは反復して行うこと

 (1)つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他通常所在する場所の付近で見張りをし、またはこれらの場所に押し掛けること

 (2)電話をかけ、またはファクシミリ装置を用いて送信すること

毎日新聞 2008年2月4日 東京朝刊

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