ハンセン病基本法案 国民分断の「差別禁止」とならないよう、定義や対象を明確にすべき。障害者の国内法整備でも同様。
ハンセン病問題基本法(・・弁護士案)
第 一章 総則
(趣旨・目的)
第一条 この法律は、ハンセン病問題に関する施策の基本理念を定め、並びに国、地方公共団体の責務を明らかにするとともに、ハンセン病問題に関する施策の基本的事項を定めることにより、ハンセン病の患者であった者等の名誉の回復及び福祉の増進を図り、あわせて、死没者に対する追悼の意を表し、もって偏見・差別のない社会の実現を目的とする。
(定義)
第二条 この法律において、「ハンセン病患者であった者」とは、らい予防法の廃止に関する法律(平成八年法律第二十八号。以下「廃止法」という。)によりらい予防法(昭和二十八年法律第二百十四号。以下、「旧らい予防法」という)が廃止されるまでの間に、ハンセン病を発病し、かつ発病後相当期間日本国内に住所を有したことがある者をいう。
2 この法律において、「国立ハンセン病療養所」とは、旧らい予防法十一条の規定により設置した以下の一三の療養所をいう。
国立療養所松丘保養園
国立療養所東北新生園
国立療養所栗生楽泉園
国立療養所多磨全生園
国立駿河療養所
国立療養所長島愛生園
国立療養所邑久光明園
国立療養所大島青松園
国立療養所菊池恵楓園
国立療養所星塚敬愛園
国立療養所奄美和光園
国立療養所沖縄愛楽園
国立療養所宮古南静園
3 この法律において、「国立ハンセン病療養所等」とは、前項の国立ハンセン病療養所及び本邦に設置された厚生労働大臣が定めるハンセン病療養所をいう。
4 この法律において、「入所者」とは、一項の「ハンセン病患者であった者」のうち、現に国立ハンセン病療養所等に入所している者をいう。
5 この法律において、「退所者」とは、廃止法により旧らい予防法が廃止されるまでの間に、国立ハンセン病療養所等に入所していた者であり、現に国立ハンセン病療養所等を退所しており、かつ日本国内に住所を有する者をいう。
6 この法律において、「入所者等」とは、四項の「入所者」及び五項の「退所者」をいう。
7 この法律において、「非入所者」とは、一項の「ハンセン病患者であったもの」のうち、旧らい予防法が廃止されるまでの間に、国立ハンセン病療養所等に入所したことがない者であって、かつ日本国内に住所を有する者をいう。
(基本理念)
第三条 我が国の誤ったハンセン病政策によってハンセン病およびハンセン病であった者に向けて作出、助長された偏見・差別を除去するため、ハンセン病政策の歴史の検証と正しい知識の普及・啓発および、ハンセン病患者であった者及びその家族の名誉の回復が図られなければならない。
2 国立ハンセン病療養所等の入所者が、現在居住する国立ハンセン病療養所等で、安心して暮し続けられるように、社会の中で生活するのと遜色のない生活及び医療の水準を確保されなければならない。また、国立ハンセン病療養所等は地域社会において差別のない社会を実現するための開かれた役割を果たさなければならない。
3 入所者が社会復帰を希望する場合には、社会復帰が実現されるように支援されなければならない。また、退所者及び非入所者が、終生にわたって社会の中で安心して生活できることが保障されなければならない。
4 何人も、ハンセン病患者であった者に対して、ハンセン病患者であったことを理由として、あるいは現にハンセン病に罹患している者に対して、ハンセン病に罹患していることを理由として、差別することその他、権利利益を侵害する行為をしてはならない。
5 前4項のほか、ハンセン病問題に関する施策は、我が国における誤ったハンセン病政策がハンセン病患者であった者にもたらした甚大な被害に照らし、その被害を可能な限り回復することを旨として行われなければならない。
(国及び)地方公共団体の責務)
第四条 国は、前条の基本理念を実現するために必要な措置を講じなければならない。
第五条 地方公共団体は、第二条の基本理念を実現するために、国の施策を支援するとともに自らも必要な施策を施策を講じなければならない。
(当事者の意思の尊重)
第六条 国は、第四条のハンセン病問題に関する施策の適切な策定及び実施に資するため、ハンセン病患者であった者らの意見を施策に反映させるための措置を講ずるものとする。
第七条 地方公共団体は、第五条の自ら行うハンセン病問題に関する施策の適切な策定及び実施に資するため、ハンセン病患者であった者らの意見を施策に反映させるための措置を講ずるものとする。
第二章 国立ハンセン病療養所等における生活及び医療の保障
(国立ハンセン病療養所における療養)
第八条 国は、国立ハンセン病療養所において、入所者に対して、必要な生活支援と医療を行うものとする。
(国立ハンセン病療養所への再入所及び新規入所)
第九条 国立ハンセン病療養所の長は、退所者が、必要な生活支援と医療を受けるために国立ハンセン病療養所への入所を希望したときは、入所させないことについて正当な理由がある場合を除き、国立ハンセン病療養所に再入所させるものとする。
2 国立ハンセン病療養所の長は、非入所者が、必要な生活支援と医療を受けるために国立ハンセン病療養所への入所を希望したときは、入所させないことについて正当な理由がある場合を除き、国立ハンセン病療養所に入所させるものとする。
3 国は、前二項の規定で入所した者に対して、必要な生活支援と医療を行うものとする。
(在園、生活水準及び医療水準の保障)
第十条 国は、入所者の意思に反して、国立ハンセン病療養所から退所、転園させてはならない。
2 国は、入所者に対し、社会の中で生活するのと遜色のない生活及び医療の水準を保障するため、財政上の措置を講ずるとともに、国立ハンセン病療養所の生活環境及び医療体制の整備を行うものとする。また、その実現のために充足すべき医師、看護士及び介護員の確保に必要な措置を講じなければならない。
3 国は、国立ハンセン病療養所の生活環境及び医療体制の整備に当たっては、入所者が希望するかぎりその居住する国立ハンセン病療養所で最後まで安心して暮らせるようにするとともに、人間らしい生活を確保するためにその生活が地域社会から孤立したものにならないよう配慮しなければならない。
4 国は、前二項の目的を達成するため、国立ハンセン病療養所の設備及び土地(第19条1項に定める施設を含む)を地方公共団体あるいは地域住民等の利用に供する等のほか、必要な措置を講じなければならない。地域住民等が利用する施設の事業執行者を認可する手続その他、必要な事項は〔厚生労働省令〕で定める。
5 前項の措置を講ずるにあたっては、国は当該国立療養所の入所者の意向を尊重しなければならない。
(国立ハンセン病療養所以外のハンセン病療養所に対する措置)
第十一条 国は、国立ハンセン病療養所以外の、厚生労働大臣が定める厚生労働大臣が定めるハンセン病療養所における入所者に対しても、必要な療養を保障するための財政上の措置を講じなければならない。
第三章 社会復帰の促進及び社会での生活の援助
(退所準備金等社会復帰の支援)
第十二条 国は、国立ハンセン病療養所等からの退所を希望する入所者の円滑な社会復帰に資するため、退所準備金の支給等必要な措置を講ずるものとする。
(退所者及び非入所者給与金)
第十三条 国は、退所者の生活の安定等を図るため、厚生労働大臣の定めるところにより、ハンセン病療養所退所者給与金を支給する。
2 国は、非入所者の生活の安定等を図るため、厚生労働大臣の定めるところにより、ハンセン病療養所非入所者給与金を支給する。
(ハンセン病等に対する社会内医療体制の整備)
第十四条 国及び地方公共団体は、退所者及び非入所者が、国立ハンセン病療養所及びそれ以外の一般医療機関で、安心してハンセン病及びその後遺症等関連疾患の治療を受けることができるように、医療体制の整備に努めなければならない。
(相談窓口の設置等)
第十五条 国及び地方公共団体は、退所者及び非入所者の社会内での生活を援助するため、相談窓口の設置等、必要な措置を講ずるものとする。
第四章 親族等の援護
第十六条 都道府県知事は、国立ハンセン病療養所の入所者の親族(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情のある者を含む。)のうち、当該入所者が入所しなかったならば、主としてその者の収入によって生計を維持し、又はその者と生計を共にしていると認められる者で、当該都道府県の区域内に居住地(居住地がないか、又は明らかでないときは、現住地)を有するものが、生計困難のため、援護を要する状態にあると認めるときは、これらの者に対し、この法律の定めるところにより、援護を行うことができる。ただし、これらの者が他の法律(生活保護法(昭和二十五年法律第百四十四号)を除く。)に定める扶助を受けることができる場合においては、その受けることができる扶助の限度においては、その法律の定めるところによる。
2 援護は、金銭を給付することによって行うものとする。ただし、これによることができないとき、これによることが適当でないとき、その他援護の目的を達するために必要があるときは、現物を給付することによって行うことができる。
3 援護のための金品は、援護を受ける者又はその者が属する世帯の世帯主若しくはこれに準ずる者に交付するものとする。
4 援護の種類、範囲、程度その他援護に関し必要な事項は、政令で定める。
(都道府県の支弁)
第十七条 都道府県は、前条の規定による援護に要する費用を支弁しなければならない。
(費用の徴収)
第十八条 都道府県知事は、第十六条の規定による援護を行った場合において、その援護を受けた者に対して、民法(明治二十九年法律第八十九号)の規定により扶養の義務を履行しなければならない者(入所者等を除く。)があるときは、その義務の範囲内において、その者から援護の実施に要した費用の全部又は一部を徴収することができる。
2 生活保護法第七十七条第二項及び第三項の規定は、前項の場合に準用 する。
(国庫の負担)
第十九条 国庫は、政令で定めるところにより、第十七条の規定により都道府県が支弁する費用の全部を負担する。
(公課及び差押えの禁止)
第二十条 第十六条の規定による援護として金品の支給を受けた者は、当該金品を標準として租税その他の公課を課せられることがない。
2 第十三条の規定による援護として支給される金品は、既に支給を受けたものであるとないとにかかわらず、差し押さえることができない。
(事務の区分)
第二十一条 第十六条第一項及び第十八条第一項の規定により都道府県が処理することとされている事務は、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二条第九項第一号に規定する第一号法定受託事務とする。
第五章 差別行為の禁止
(国立ハンセン病療養所における差別行為の予防)
第二十二条 第三者が第十条四項にもとづいて国立ハンセン病療養所の 施設及び土地の供用を受ける場合には、国及び地方公共団体は療養所の中で差別行為が行われないように啓発活動等必要な措置を講じなければならない。
(国立ハンセン病療養所における差別行為の禁止)
第二十三条 第十条四項にもとづいて国立ハンセン病療養所を施設及び土地の供用を受けた者によって、入所者が重大な差別行為等人権を侵害されたと客観的に認められる場合には、入所者ないし入所者を代表する団体は差別行為の排除を裁判所に求めることができる。
2 前項の規定は、入所者が重大な差別行為等人権を侵害される畏れがあると客観的に認められる場合の差別行為の予防についても準用される。
第六章 啓発及び名誉回復並びに死没者の名誉回復追悼
(資料等の保存等)
第二十四条 国は、ハンセン病及びハンセン病対策の歴史に関する正しい知識の普及啓発並びにハンセン病患者であった者及びその家族の名誉回復を図るために、国立ハンセン病資料館を設置する。
2 国は、ハンセン病及びハンセン病対策の歴史に関する正しい知識の普及啓発並びにハンセン病患者であった者及びその家族の名誉回復を図るため、国立ハンセン病療養所における資料及び歴史的建造物の保存等必要な措置を講ずるものとする。
3 国は、国立ハンセン病資料館の運営に当たっては、第1項の目的を実現するために、入所者及び入所者が推薦する複数名の学識者経験者が委員の半数以上を占める運営委員会を設置しなければならない。
(死没者に対する名誉回復追悼の措置)
第二十五条 国は、ハンセン病の患者であった者で死没した者に対する追悼の意を表するとともに、その名誉の回復を図るために必要な措置を講ずるものとする。
(厚生労働省令への委任)
第二十六条 この法律に定めるもののほか、この法律の目的を達成するために必要なその他 の事項は、厚生労働省令で定める。
ハンセン病問題基本法・要綱について 志村 康
http://www.eonet.ne.jp/~libell/200710simura.html
八月一日現在、菊池恵楓園の入所者は四四九名となりました。昭和三十年代には一七〇〇名をこえた入所者数からすると問もなく四分の一に減少いたします。これから十五年から二十年後には五〇名以下になるというコンピューター予測が出されております。
菊池恵楓園入所者自治会としては、入所者が四〇名以下になった時には新・第三病棟を入所者専用の病棟に模様替えして療養の場としたいと考えております。そこには国の医療機関としては当然、園長はもとより医師・看護師・介護員の確保及び施設運営に必要な職員の確保についても施設側との将来構想委員会で協議をしてきております。平成二十年八月までには菊池恵楓園としての将来構想を出すことになっており、対象者と見られる六十五歳以下の方々には特に意見を出していただき、憂いを残すことがないようにしなければなりません。
菊池恵楓園の将来構想が出来上がったとしても、厚労省はこれまでに出された奄美和光園の開放医療の提案に対して、何等の解決策も示さず、ハンセン病療養所はハンセン病患者以外を対象としては考えていないという、これまでのハンセン病療養所に対する立ち枯れ政策から一歩も踏み出してこないのであります。
基本合意があり、確認事項があるにもかかわらず、最後の一人まで現在の療養所の中で終焉を迎えたいという希望に対しては、最後まで医師を確保し看護師がいたとしても最後の一人になるのはつらすぎる、したがってその前に自分は死にたいという言葉が多く聞かれてきますが、入所者が思うところはやはり各園共に皆同じであると思います。
ある時、弁護士の方から「大島青松園に最後の一人が残ったと想像してみて下さい。皆さんは胸が痛みませんか?」と問われて、確かに最後の一人になったときには寂しさで狂気になってしまうのではないかという強迫感に押しつぶされそうになりました。
将来構想という言葉そのものに問題があるという指摘は確かであります。恵楓園でも問もなく七十八歳という平均年齢に達するところに来ております。そのような中での将来構想が最後の一人に力点が置かれてしまうと、自分には関係がないということになりかねません。そうではなく、残された短い時間の中で出来ることは何なのかという問いにこそ力点を置くべきだと考えています。
「全療協ニュース」第922号によれば、「十三の療養所の医師定員は百四十四名であるが、現在十五名の欠員が出ている。社会の中で生活するのと遜色のない水準の医療を行なうためには、医師定員の充足は不可欠であるので、直ちに欠員を補充すること。」を統一交渉団は副大臣を座長とするハンセン病問題対策協議会で協議するとしています。
ハンセン病療養所は、いうまでもなく国立の療養所であります。医師不足は深刻であり、ある療養所では園長が月に十五日以上も当直をしなければならない状況に追い込まれています。そのことは労働基準法違反であり、園長自身の命さえ危うくするものであり、その医師に命を預ける入所者の命の危機でもあります。
山上・僻地・離島といった環境にしか療養所が立地できなかったというよりも、そのような立地条件を選択して現在の療養所が設立されたわけですが、公務員バッシングの中で医師・看護師その他現業職員に対してまでも冷遇が始まっています。調整号俸はゼロを目指していますが、山上・僻地・離島で仕事をしなければならない職員にとっては、子弟の学業問題も生じます。さらに菊池の場合、現在は医師・看護師・介護員の充足が何とか図られてはいますが、医療を市場経済に委ねた結果、独立医療法人化された独法との間で賃金格差が生じていると聞いています。
このように、ハンセン病療養所で働く人の雇用が生活条件・経済条件の両面からも充員が絶望的な状況では、療養所のセーフティーネットが政府の手によって崩壊させられようとしていると言わざるを得ません。
療養所の医師確保については厚労省が第一義的に責任を果たすべきであり、各療養所の所長が総ての責任を負う必要はないはずです。
国は「国家とは国民の生命と財産を守ることが第一義である」とよく口にしますが、ハンセン病療養所に医者も看護師や介護員も来ないという状況を作りながら、その解決策さえ示しえないのは官僚が無能だからなのか、国が医療政策を誤ったかのどちらかです。しかし、そう評論家的に言っても何の解決にもなりませ
ん。
そこで出てきたのが基本合意と、確認事項と廃止法で獲得した既得権を法文によって確かなものにするために、ハンセン病問題基本法を議員立法で成立させるべく、国民支持の証として百万人の署名運動に入っておりますのは、自分の意思に反する転園を許さないで、自分が選択したところで療養を全うする権利を獲得するためであり、あらゆるつてを使って、ぜひとも成功させようという運動の提起であります。
「全療協ニュース」第922号(2007年8月1日)の「主張」には、ハンセン病問題の原点である「差別・隔離政策からの被害回復」を中心にすえた「ハンセン病問題基本法」の制定を求める運動を、私達は大々的に推進することを決定した事を報じております。
ハンセン病問題基本法・要綱
3 基本理念
・ハンセン病問題に関する施策について、誤った政策による被害の現状回復を可能な限り実現することを旨として行なう国の責務。
・誤った政策によって作出された、助長された差別・偏見を除去するため、ハンセン病及びハンセン病対策の歴史に関する正しい普及・啓発に努めるとともに、ハンセン病患者であった者及びその家族の名誉の回復に努める国の責務。
と謳っておりますが、らい予防法違憲国賠訴訟判決は、らい予防法がハンセン病に対する偏見差別を助長し定着した事実を指摘しております。
法廃止から十一年、熊本地裁判決から六年が経ちましたが、その間に温泉ホテル宿泊拒否事件が起きました。熊本県は人権侵害で告発しようとしましたが、人権侵害では法の不備により告発できず、略式裁判による旅館業法違反で僅か二万円の科料で処理されたのです。
熊本県は国に対して人権侵害に対処すべき法の整備を要請した結果、人権擁護法案が国会に上程されたのですが、人権擁護法案にはマスコミ規制等の不純物がつけられて廃案となりました。特に与党内の人権意識の低さが垣間見られる結果となりました。
ホテル宿泊拒否事件はマスコミによるミスリードから、自治会に対して大量の誹謗中傷の文書・電話・ファックス等が送りつけられ、自治会は写真版の差別文書綴りを刊行して社会に対して人権侵害の警鐘を鳴らしました。
中でも大量・差別はがき事件の犯人からも長文の手紙・はがき五通が送りつけられましたが、大量・差別はがき事件公判に対して検察側の私印偽造及び使用の証拠品として裁判所に提出されました。私印偽造及び使用の証拠としては十分ではあっても、人権侵害については該当する法律がなく、憲法十四条一項に違反しており憲法違反であると検察側が論告求刑の中で述べるに留まっております。
憲法は理念法であるから、それはそれとしてということを言う人がありますが、そうではあっても最高法規である憲法を無視してよいというものではないはずです。憲法の理念を生かすためには実定法で規定すればいいのですが、法律は国会の専権事項である以上、国会議員に働きかけをする以外に方法がありません。
差別禁止法の規定を求めて
ハンセン病基本法・要綱 3基本理念・の前段はいいとしても、「ハンセン病患者であった者及びその家族の名誉の回復に努める国の責務」という基本理念でいいのでしょうか。
基本合意・確認事項は統一交渉団と厚労大臣及び副大臣との間で取り交わされたものであるにもかかわらず、医師不足に対しても何等の対策も示さず、将来構想に対しても何一つ答えようとはしない。無策としか言いようがない。そこでハンセン病問題基本法を作って法の縛りをかけようということでもあります。
「全療協ニュース]第922号の「主張」で訴えたように、ハンセン病問題の原点である「差別・隔離政策からの被害回復」を中心にすえた「ハンセン病問題基本法」の制定を求める運動を全力で闘いとらなければなりません。そうしないと国が考えていることは、長尾レポートに見られるように悲惨な終末を迎えることになり兼ねません。
「ハンセン病患者であった者及びその家族の名誉の回復に努める国の責務」より踏み込んで 「ハンセン病であったもの及びその家族に対して差別は許さない」 というべきではなかったかという思いを強くしております。
基本法では療養所を解放し併設も認めようということであります。予防法廃止と熊本地裁判決以来、多くの見学者を園内に迎えるようになったことは様変わりに思われるかもしれませんが、療養所の解放は、社会にあるハンセン病に対する差別と偏見をそのまま受け入れるということにもなるからです。
そこまでの覚悟がなければ、一人ぼっちで死んでゆくしかないというのがハンセン病療養所の将来であります。そうならないためにも何を併設するのか、何が出来るのかの問いに答えを出さなければなりません。
それには第一に、ハンセン病に対する差別禁止の条項が必要だと考えております。差別が易々とは消えないにしても人権擁護法案すら日本にはないのです。法務省には人権擁護局があり、各県にも法務局がありますし、人権擁護課があり人権擁護委員が配置されておりますが、人権侵害によって被害を受けても人権規定が実定法にはないために人権を侵害されたと思っても、訴えることが出来ないのです。人権擁護委員に人権侵害の事実を申し出ても、人権擁護委員は上部に事実を報告するだけで自分で判断してはいけないのです。その上部が判断できない時は、そのまた上部へということで時間がかかります。もし上部で人権侵害があったと認定しても、加害者に対して、貴方の行為は人権侵害に当たりますよ、相手に謝りなさいと勧告し、被害者側に対しては相手が事実を認めて謝っていますので和解しなさいというだけで終わりです。それ以上は、どこにも訴える場がないのです。
再び申し上げますが、「療養所の社会化」ということは、社会に在る差別や偏見も受け入れるということです。交流が進んでいけば理解が深まるでしょうが、社会化された療養所の中で入所者がまったく人権侵害を受けずに生活を全うできるということは信じがたいものであると思います。
「私はハンセン病を発病しております、療養所に入所させて下さい」と診察を受けに来た人がいます。また診察に来て国民健康保険料の自己負担分について、自分たちが払った税金で賄われている療養所に何故二重に金を払うのか等など、入所者にとって嫌がらせ以外のなにものでもない実態があるのです。
基本法には、ハンセン病に対する差別禁止が規定され、その規定を拠り所とすべきだと思います。ハンセン病に対する差別が過去形で語られているならば、ハンセン病基本法の制定も必要がないということになるはずです。
人権についての共通のバイブルはなく、その立場立場で考え方が異なり、人権侵害を受ける側と加害者、人権侵害をなくすための人権機関の間でさえも人権に対する感覚が異なっていることを、ハンセン病に対する啓発活動の中で痛感してきました。
そのことについて、何故そうなるかを明快にした一文がありますので、少し長文になりますがアジア・太平洋・人権教育国際会議を終えてジェファーソン・プランテリアが語った言葉を紹介いたします。
「・・世界人権宣言に続いて出てきた人権文書は、国連のものであれ、国連専門機関のものであれ、あるいは欧州、アフリカ、米州の地域人権メカニズムであれ、人権の実現という大きな目標に細部を継ぎ足したり何らかの特色を加えたものとなっている。
公式に言えば、ほぼすべての人々が必要としているほぼすべての人権はすでに議論され、それぞれの政府や政府間組織によって合意されている。人権の概念ははっきりとしているかに見える。
だが、これはペーパー上のことだけで、人びとがどう人権を理解しているのかは別問題だ。
この問題は、人権教育活動の対象になると思える人びと(人権活動に関わる人びとを含む)の側から見るべきだ」
(「月刊ヒューマンライツ」131号)
引用文でも明らかなように、百人百様の人権に対する捉え方があり、混沌としていると言うしかないのが現状であります。
『国際人権規約と国内判例』(部落解放・人権研究所編)によって、以下、差別禁止法国際人権規約の差別禁止規定(2条2項、3条)の位置づけについて紹介しておきます。
「・・特に重要なものは、一般規定の中の、差別のない権利享受にかかわる2条2項及び3条である。
2条2項は締約国に対し、規約上の権利が人種、皮膚の色、性などによるいかなる差別もなしに行使されることを『保障する』とした規定であり、3条は、男女同権についてさらに重ねて、規約上の権利の享有について男女に同等の権利を『確保する』とした規定であって、自由権規約2条1項にいう
『確保する』と同じ、または同義の語を用いている。2条2項は、1項とは分離して規定されており、
『保障する』という文言を用いて、差別がないことを直ちに確保するという即時的実現の義務を課したものとみるのが広く認められた解釈である。
差別禁止が規約上『確保』義務であることのほか、(中略)差別行為という作為の違法性を認定することは、権利実現のための措置をとらないという不作為の認定と比較してはるかに容易だということである。
先にみた国家の義務の4側面(筆者註=人権に関する国家の義務①尊重、②保護、③充足、④促進)でいえば、国による差別行為に対する救済または第三者による差別行為の救済であり、尊重義務と保護義務にかかわる。社会権規約委員会は、締約国の義務の性格に関する一般的意見
第3で、規約の中には司法判断に適する規定も複数あると述べた中で、認められた権利を『差別なく』享受することは司法的救済を与えられるのに適切であることを強調している。」
以上は原文のままで「日本の裁判所に於ける社会権規約適用の現状と課題」(申恵丯)の中より抜粋させていただきました。
啓発活動の中で、私は差別禁止法の制定を求めてきました。日本の政府状況の中では実現は非常に困難なことであると思いつつも、社会内にある差別の状況を知るにつけ差別禁止法の制定が必要であり、どのような行動をとれぱ法律が制定できるのかを、考えてまいりました。
日本は国際人権規約の締約国であり、憲法第九十八条2項には「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」と規定されております。条約及び国際法は憲法の次に位置づけられており、「差別がないことを直ちに確保するという即時的実現の義務を課したものとみるのが広く認められた解釈」であります。
全療協がいう「差別・隔離政策による被害の回復」がハンセン病問題の原点であるとするならば、新法には差別禁止条項を入れることが不可欠ではないでしょうか。
百万人署名を求めるにあたり、隔離政策による被害の回復を求めるためにも、現在もなお進行中である社会にある差別に対して、全療協が主体となって毅然とした意思表示することが欠かせないと思います。
ハンセン病に対する差別が存在することを否定する国会議員はいないはずだし、「差別が無いことを直ちに確保するという即時的実現の義務を課したものとみるのが広く認められた解釈である。」ということであればなおさら、国会に対して差別禁止法を制定しない立法不作為による罪で訴訟も辞さないという固い決意で臨む、それ程の決意表明があって然るべきだと思います。
(2007年8月19日)
(「菊池野」2007年10月号より)※文中のリンクは編者リベルによるものです
「ふるさとをむすぶ」
http://www.geocities.jp/furusatohp/main.html
日本からの報告
ハンセン病問題解決のための取り組み
http://www5b.biglobe.ne.jp/~naoko-k/rprtfrmjpindex.htm
http://www5b.biglobe.ne.jp/~naoko-k/index.html
ハンセン病国賠弁護団
http://www.hansenkokubai.gr.jp/
ハンセン病市民学会
http://shimingakkai.com/
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