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共謀罪の本質は何も修正されてはいない

共謀罪再チャレンジ
自民修正案『ラベル張り替え』 

 「廃案」の世論が高まった後も、衆院で継続審議の共謀罪法案。統一地方選や参院選を意識し、政府は今国会での審議入りをためらっている。だが、自民党の小委員会は先月、「テロ等謀議罪」と名称を変更し、同法案の修正案要綱を打ち出した。内容よりも“ラベルの張り替え”が際立つが、効果は侮れない。政府もこの要綱の方向で、3年越しの攻防に決着をつけたい構えだ。 

■廃案求む声に着々巻き返し

 二〇〇四年の通常国会提出時には世間の関心も薄かった共謀罪法案だが、次第に政治焦点化。昨秋には日本弁護士連合会(日弁連)などの独自調査で政府見解の誤りが指摘され、「白紙化」への勢いが増していた。

 だが、安倍首相の成立への意欲は衰えず、今通常国会直前の一月十九日には長勢甚遠法相に成立を指示。しかし、選挙への影響を懸念する自公両党執行部の反発から、四日後には指示を撤回した。

 ただ、政府与党は着々と巻き返しを進め、自民党法務部会の「条約刑法検討に関する小委員会」(笹川尭委員長)は先月二十七日、修正案要綱を発表。反対する野党四党(民主、共産、社民、国民新)は今月、合同の対策チームを設けた。

 今回の修正案要綱は従来の政府案の何を変えているのか。素案によると、主に二つの点が挙げられる。

 一つは名称。「組織的な犯罪の共謀罪」から「テロ等謀議罪」に変更した。対象を「テロリズム等組織的な犯罪」とした。ただ、あくまで「等」であり、対象犯罪に「児童買春」や「有価証券偽造」なども含む。

 もう一つは対象犯罪の数だ。政府案は「四年以上の懲役・禁固」に当たる六百十九の犯罪を一律に挙げていたが、これを「テロ」「薬物」など五類型の約百二十から百五十の対象犯罪に絞り込む方針だ。

 一方で、今回の修正案要綱は、国会内外でこれまで指摘されてきた肝心な問題点には触れていない。

■米国の例では留保付き批准

 例えば、共謀罪の新設には国連の「国際組織犯罪防止条約」の批准のためという前提がある。このため、日弁連などは「対象を越境的な犯罪集団に限定すべき」と提起してきたが、この点は無視されている。

 米国はアラスカ州など三州で共謀罪が不十分であるにもかかわらず、留保付きで批准。その例に従えば、現在でも五十八の予備・共謀罪、共謀共同正犯などがある日本も批准できるという指摘にも反応なし。

 あるいは条約手続きは批准書の送付のみででき、国連の審査もないため、批准に共謀罪新設の必要はないという国際法学者の解釈にも触れられていない。

 いずれにせよ、政府はこの修正要綱の方向で反転攻勢をかけそうだ。実際、二十日の参院外交防衛委で浅野勝人外務副大臣は「(自民党)小委員会の修正案が確定され国内法ができれば、条約の締結に最大限の努力をする」と答弁。

 その際、「(条約を文字通り、国内法に反映させなくても)国連事務総長の異議があるとは思えない」と、国際法学者の新設不要論の論理を“借用”した。

 加えて、法務省刑事局の担当者は「最大の焦点は条約批准上、修正案が十分か否かの点。外務省が問題ないとみれば、法務省としては対象犯罪の数が絞られても問題はない」と話した。

 では、修正案作成の舞台裏には、どんな狙いや問題が隠されているのだろうか。

 今月八日、日弁連主催の集会で、社民党の保坂展人衆院議員は要綱を「中身に新味はなく、名称によるイメージ変更というすり替え工作」とこき下ろした。

 「“共謀罪反対”というスローガンが浸透する中、“テロ等謀議罪反対”は語呂も悪く言いにくい。反対世論をかわしたい一心だ」

 しかし、たかだか「ラベルの張り替え」でも、その効果は軽視できないと山下幸夫弁護士は警戒する。

 「思い出すのは、一九九九年八月に成立した盗聴法だ。あのときも猛烈な世論の反発があり、政府は『通信傍受法』と名称を付け替え、今回同様、対象を『組織的殺人』など四類型に絞って反発をかわした。今回とまったく同じ手法だ」

■条約の目的はマフィア対策

 別の問題点はその名称自体にある。「テロ」を前面に押し出した点だ。安倍首相自らも昨年九月、「イギリスではテロを未然に防いだ。条約を結んでいる以上、国内法を整備する責任は果たしていくべきだ」と共謀罪をテロ対策の一環として位置づけている。

 だが、共謀罪新設の根拠である国際組織犯罪防止条約の狙いはあくまで金銭目的のマフィア対策。政治主張に基づく「テロ」対策とは次元が異なる条約だ。

 〇一年の米中枢同時テロ以降、アフガン、イラク両戦争も「反テロ」で正当化されるなど、「反テロ教」ともいえる論調は世界中の人権を蹂躙(じゅうりん)してきた。

 富山大学の小倉利丸教授(現代資本主義論)は「そもそも、テロの定義は国際法も含めて定説がない。現状では、どこの国をみても『テロ犯罪』取り締まりはあらゆる反政府的な活動から、現政権を守る政治弾圧を正当化する手段になっている」と解説する。同教授は共謀罪に「テロ等」をかぶせた今回の修正要綱もその延長線上にあるとみる。

 さらに今回の名称変更では「共謀」は退けられ「謀議」が掲げられている。

 関東学院大学の足立昌勝教授(刑法)は「謀議は共謀の前提。つまり、共謀にもならない謀議の段階で処罰を認めれば、処罰範囲は格段に広まってしまう」とこの名称に首をかしげる。

■定義あいまい 当局の裁量に

 さらに「このため、素案でも『犯行の遂行について具体的な謀議を行い、これを共謀した者』を対象にするとしている。となれば、名称は共謀罪以外にはなく、『謀議罪』は共謀罪の悪評を覆う隠れみのにすぎない」と疑問を投げかける。

 対象犯罪を絞り込んでいる点についても、足立氏は「外務省や法務省は従来、『四年以上の刑が規定されているものが重大犯罪で、その絞り込みは条約では許されていない』と一貫して答弁してきた。彼らがこの修正要綱を評価するとすれば、これまでの答弁は一体何だったのか」と憤る。

 対象団体を「共同の目的が対象犯罪等を実行することにある団体」と限定している点も「活動目的すべてが規約に記されているわけでもなく、結局は取り締まり当局の主観的判断に委ねられてしまう」と“限定”とはほど遠いと批判した。

 条約の趣旨とは無縁でも反対世論封殺のために「テロ」を掲げ、成立のためには従来の政府答弁も一転させるというなりふり構わない姿勢が透けてみえる。

 非営利法人に携わる反対派の一人は「結局は労働運動などを弾圧する治安立法にすぎない。団体交渉つぶしに使える逮捕監禁罪や、スローガンの落書きに重罪を科す建造物損壊などは対象犯罪にちゃんと残してある」と冷めた表情だ。

 廃案か成立かの攻防は依然、続いている。山下弁護士はこう付け加えた。

 「一見、ソフトにみえる法案が一番怖い。共謀罪の本質は何も修正されてはいない。対象犯罪を絞っても一度成立させれば、後は、なし崩しに“改正”で広げてくるのが官僚の常套(じょうとう)手段だ」

<デスクメモ> 政府が「共謀罪捜査には電話・メール盗聴捜査が必要」と主張→解禁へ→東京地検特捜部が盗聴を駆使し、裏金で遊ぶ官僚を五百人、いっせい逮捕!→故・宮本邦彦警部のような優しい現場警察官たちが続々、警察首脳になる!→さらに、悪徳政治家も千人逮捕され全滅! こんなこと起きたら面白いけどね。 

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