島根県・事業終結へ
同和対策事業を終結 島根県が人権連に表明
島根県地域人権運動連合会
事務局長 片寄 直行
はじめに
島根県地域人権運動連合会(略称=しまね人権連、大西修議長)は、2004年7月、全解連から発展的転換をはかりました。転換以前から毎年、自治体との懇談を行い、昨年12月には島根県から「来年度(2007年度)から同和対策事業はやめ、一般対策へ移行するよう協議中」との回答を引き出しました。
島根では、特別措置法による事業に477億円を投入。物的事業は改善したと総括しました。また、県は「特別措置法失効後、経過措置として実施してきた自動車運転訓練事業や融資制度は一般対策へ移行し、所得制限を設けた上で生活福祉資金の貸付制度で対応する」と述べました。全解連時代から終結を求めてきた運動の成果であり、同和行政・教育の完全終結にむけた大きな前進です。
次に、最近の島根県内における情勢と今後の課題について報告します。
同和団体への補助金を廃止・縮小へ
2002年初頭、特別措置法終了後の補助金のあり方について、当時の全解連大田支部(その後、大田地域人権運動に改組)は、補助金からの脱却を提案しました。この議論を受けて大田市は5年間で団体運営補助金を全廃することを決定。2006年度からは全廃となりました。島根県は行政改革の一環としても補助金の削減に手をつけざるをえず、法失効後の5年間で15~20%の削減を行いました。島根県も県内の大田市以外の自治体も補助金の削減をしつつありますが、「民間運動団体との連携は不可欠」として補助金の廃止の考えは今のところ示していません。松江市では2004年に同和団体への補助金の使途、会計処理をめぐって問題が発覚。松江地域人権運動(筆者が会長)との協議の中、松江市執行部は同和団体に対する初の会計検査を行いました。市は指導・監督が不十分だったことを認め、補助金の厳正な審査と補助額の減額(2005年度から)を実行しました。
島根県内の自治体は、補助金以外に「法令外負担金」として同和会県連に負担しています。隠れ補助金です。ところが、同和会県連の予算、決算にそれが計上されず、会費の費目の中に入れられていました。しまね人権連はこの問題と法令外負担のあり方をとりあげ、計上費目の点では改善させました。
「解同」路線に追随の島根県行政
2000年以降、県立高校において「差別」発言だとする問題が相つぎました。松江工業高校、浜田高校、三刀屋高校における生徒・学生による発言です。そして、島根県教育委員会や部落解放同盟(「解同」)との協議を経て、各高校のまとめ文書が作成されました。人権侵害の具体的事実はなにもありませんので、私は差別発言とは思いませんが、部落差別を温存助長するものだとして、県教委や高校側は差別発言と断定したのです。
差別事件の場合、かつては部落解放同盟の表立った「確認・糾弾会」が行われていましたが、全解連時代からの私たちの反論もあって、やり方は柔軟になったようです。名称も「運動団体との協議」に変更されていますが、基本的流れはかわりません。むしろ、県教委の指導資料が「確認・糾弾」にお墨付きを与え、レールを敷いたといえます。部落解放同盟の介入をごく自然に受け入れ、教育の中立性を自ら犯す行為は許せません。
まとめの文書で共通しているのは、①差別発言を招いた責任は本校にあり、差別の現実に学ぶという視点が欠落していた、②今後は教職員が同和地区に出かけ、差別の現実から深く学ぶ、③同和教育推進体制の確立、中学校との連携、進路の保障、同和教育をすべての教育活動の基底に据えた教育実践などです。それは、県教委の発行した同和教育指導資料第19集「同和教育をすすめるために」や第20集「差別事象から学ぶために」などの考えを踏襲しているからです。
これら一連の高校での問題が決着してから、県教委は2006年3月、「島根県における同和問題の歴史」を刊行。同時に、同和問題学習の展開例を小学校、中学校、高等学校別に示した同和教育指導資料第22集「島根県における同和問題の歴史」―学校教育活用編―を発行しました。江戸時代から昭和戦後期までの島根での「差別された人々」の状況、部落解放運動、同和行政・教育の変遷について記述しています。県教委は、今後、社会教育編(仮称)の発行に取り掛かるとしています。
22集で滑稽なのは、水平社宣言の引用中、「人の世に熱あれ 人間に光りあれ」(下線筆者)と記述しているところです。大正十一年三月三日に採択された宣言は「人の世に熱あれ 人間に光あれ」となっていますが、22集は、「光」の後にひらがなの「り」がついているところがいくつかあります。この間違いは、部落解放同盟のホームページや解放出版社の書籍と共通しています。県教委は間違いを認め、今後「訂正する」としています。22集にもとづいて、授業に取り入れたのは同和教育指定校の2校だけで、他校での実践例は今のところありません。
同和行政、同和教育の完全終結を
島根県は、同和対策事業の終結はするものの、依然として差別意識が根深く残っているとして、啓発・教育の分野で同和教育を「基底に据える」路線の再構築をはかる姿勢です。同和問題は人権問題のひとつであり、ましてや同和教育を教育の基底に据えることなどとんでもないことです。基礎自治体では地区の住民に対して、一律に固定資産税の減免をしたり、地区の子どもだけを対象とした「学力促進学級」を行っているところがあります。
同和行政、同和教育の完全終結こそ同和問題の解決です。公正で民主的な社会をきずくため県民のネットワークをはかりたいと思います。
(かたよせ なおゆき)
日本共産党松江市議会議員(4期歴任)
http://www.mable.ne.jp/~n.katayose/
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