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使い捨て労働へ まっしぐら か

asahi.com
残業代ゼロ「導入適当」 労政審
2006年12月27日
 一定の年収以上の会社員を1日8時間の労働時間規制から外し、残業代をなくす「ホワイトカラー・エグゼンプション」について、労働政策審議会(厚生労働相の諮問機関)は27日、導入を適当とする報告書をまとめた。対象者の年収条件は「管理職の平均的な年収水準を勘案」とするにとどめ、具体的な金額は示さず、労働基準法の改正後に政省令で決めることにした。同省は来年の通常国会に法案を出す方針だが、与党からは来夏の参院選への影響を懸念し、慎重な対応を求める声も出ており、法案の行方は流動的だ。

 報告書は、対象者の条件に(1)労働時間では成果を適切に評価できない(2)重要な権限・責任を伴う(3)仕事のやり方などを使用者に指示されない(4)年収が相当程度高い――の4点を挙げた。「管理職の一歩手前の人」を想定している。

 労働組合側は、労働時間規制がなくなれば過労死が増えるなどとして、導入反対を強く主張。報告に「新たな制度の導入は認められないとの意見があった」との文言を入れることで、労組側も取りまとめには応じた。

 一方で報告は、「導入企業ができるだけ広くなるよう配慮すべきだとの意見があった」と、年収条件を低くしたい経営側の意向にも言及。両論を併記することで導入の道筋だけはつけた形だ。

 労組側が求めてきた、残業代の割増率の引き上げについても、「一定時間を超える時間外労働は現行(25%)より高い一定率を支払う」とし、具体的な数字は政省令に先送りする。




年収800―900万円以上で調整、労働時間規制の除外対象者
日本経済新聞
 厚生労働省は一定の条件を満たすホワイトカラーの会社員を労働時間規制から外す新制度について、対象者の年収の下限を800万―900万円程度とする方向で最終調整に入る。経済界は年収400万円以上への導入を主張していたが、対象者を絞り込んで働き過ぎや健康管理に対する監視を徹底する。一方、解雇紛争の金銭解決制度は労使合意のメドが立たず、導入の見送りを決めた。
 労働時間規制の適用除外制度(日本版ホワイトカラー・エグゼンプション)は、労働政策審議会(厚労相の諮問機関)が年内の最終報告を目指し、導入の是非を審議中。労働基準法が定める1日8時間・週40時間を上限とする労働時間規制を一部緩和し、時間に縛られない自由な働き方を可能にするものだ。


2006年12月12日http://www.zenroren.gr.jp/jp/
労働政策審議会労働条件分科会御中

「今後の労働契約法制及び労働時間法制の
在り方について(報告)」(案)の撤回を求める

全国労働組合総連合
議長 坂内 三夫

12月8日の第70回労働条件分科会において、厚生労働省は「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)」を提案した。これまでにも事務局は幾度か論点・素案を示しており、それらに対して、全労連はその都度、問題点を指摘してきたが、今回提出された「報告案」は以前の文書に比して、あまりにも使用者の要求に配慮したものとなっている点が特徴である。
労働時間法制についての「報告案」では、30代男性の25%が週60時間以上の長時間労働をしていることを指摘し、「過労死防止や少子化対策の観点から、長時間労働の抑制を図ることが課題となっている」と前文に記している。ところが「報告案」が提起する各々の内容をみると、労働時間の上限規制の強化はなされず、時間外の割増率引上げについては具体的数値が消され、他方で「自由度の高い働き方にふさわしい制度」(日本版ホワイトカラー・イグゼンプション)の創設と「管理監督者の明確化」(スタッフ職の追加)によって労働時間規制の適用除外の対象を拡大することや、企画業務型裁量労働制の対象業務や要件を緩和することなど、課題解決どころか問題をさらに深刻化させる提案が目白押しである。
労働契約法制については、従来から強い批判のあった「就業規則の変更による労働条件の(使用者にとって有利な)変更」の仕組みなどを盛り込む一方、これまでの審議において労働者側委員や労働組合、弁護士団体などが要望してきた、有期労働契約の濫用の規制、均等待遇原則や同一労働同一賃金の原則の明示、安全配慮義務、整理解雇「4要件」(4要素ではない)の実定法化、就労請求権の確立、対象労働者の範囲の検討(雇用関係を偽装された請負・委託労働問題対策)等、今回の立法にあたって最も重視すべき課題については取り上げていない。
今回の「報告案」は、財界・使用者代表の利益至上主義に影響され、労働者保護法制を掘り崩そうとする意図が濃厚に読み取れる、極めて不当な内容といえる。現行の法制度や判例法理による労働者保護の水準を大きく後退させる、この「報告案」をもとにした法案づくりは断じて認められない。労働条件分科会における労使の意見のはなはだしい乖離からみても、「報告案」が妥当性を欠くものであることは明白であり、即時撤回を申し入れる。
以下、「報告案」の各論点について、その不当性を指摘する。

Ⅰ 労働時間法制について
 
1.「時間外労働削減のための法制度の整備」について
現行労基法の労働時間の時間外規制とその限度基準の扱いは、今でも不十分なものである。36協定を結び、25%の低い割増賃金を払えば、法定労働時間を越える時間外労働が認められる。労使協定で労働時間の延長を定めるに当たっては、協定が厚労大臣の定めた基準に「適合したものとなるようにしなければならない」(労基法36条3項)と、罰則抜きで定められているにすぎない。さらに、過去20年における労働時間規制の緩和によって、各種の変更労働時間制、専門業務型裁量労働制、企画業務型裁量労働制などさまざまな弾力的労働時間制度が導入されており、長時間労働による労働者の健康破壊が顕著になってきている。だからこそ、今求められているのは、残業規制に向けた実効性のある法整備である。ところが、今回の「報告案」は、以下に見るように、使用者に対する規制の観点はきわめて弱く、他方で、規制の網から除外される労働者を大幅に増やそうとしている。

(1)時間外労働の限度基準について
時間外労働の限度基準については、特別条項付き協定を締結する場合、延長時間を「できる限り短くするように努め」ることや、法定を超える割増賃金率とするように「努める」などと記しているにすぎない。また、この努力義務の主体は、使用者ではなく労使双方にかかる構造となっている。これでは、“協定があれば青天井”と揶揄される長時間残業の実態を是正することはできない。
なお、特別条項付き協定において法定を超える割増率に言及しているということは、1ヶ月単位でいえば45時間超から法定割増率を越える設定をするよう努めよ、ということになる。努力規定にとどめられたことに加えて、6月27日の第59回労働条件分科会において厚労省が提示した、「30時間以上で50%割増率」という水準に比べても、はるかに後退している。「報告案」は撤回し、限度基準は数値で絶対的上限を明示し、労使合意でもそれは突破できないこととして、基準法本来の性格を取り戻す法改正をすべきである。また、違反には罰則を付けるべきである。

(2)長時間労働者に対する割増賃金率の引き上げについて
 「一定時間を越える時間外を行なった労働者に対し、現行より高い割増賃金を支払うこととする」とあるが、その「一定時間」の修飾語として「労働者の健康を確保する観点から」とされている。これは月80~100時間を想定したものと推測される。このような設定では義務規定にしたとしても、大半の労働者は現行どおりの残業規制下におかれることになり、企業の残業発令を抑止する力とはなりえない。
そもそも、80時間超におよぶ労働時間は、脳・心臓疾患を引き起こす可能性が高く、なくさなければならないというのが、この間、厚労省が示した過重労働通達の指導内容である。割増率を引き上げて、過労死ラインの労働をさせたとしても、安全配慮義務が免責されるわけではない。本末転倒の考え方を助長しかねない法改正は慎むべきである。
 また、「引き上げ分」の割増賃金の支払いに代え、有給の休日付与ですまそうとする制度は、公益委員の荒木教授が審議会で高く評価していたが、有給休暇取得が年々減少し、5割にも届かない現状からみて、実効性に乏しいといわざるをえない。結局、休日返上で働くこととなり、割増賃金が支払われない状況を、労働者が是認したかのような状態が広がりかねない。また、日数に換算する場合、割増率の高い時間外労働時間が、割増率1.0の所定労働時間とみなされてしまわないかという懸念もある。仮にそうなるとすれば、使用者にとって使い勝手のよい、新しい変形労働時間制ができることになる。この案も撤回し、時間外割増率は一律で現行の25%を50%とするべきである。

(3)長時間労働削減のための支援策の充実について
 現在、特別条項を含む36協定を締結している100人以下の中小企業等に対し、助成金をふるまう支援策が概算要求されている(H18年8月「働き方改革トータルプロジェクト」)。その根拠とするために「報告案」に記したと思われるが、36協定を若干見直しただけで助成金を与えるくらいなら、指導監督にあたる職員を増員して行政指導を強化すべきである。

2.「自由度の高い働き方にふさわしい制度の創設」について
 厚生労働省事務局は、これまで「自律的労働時間制度」と称していたものを「自由度の高い働き方にふさわしい制度」へと突然、名称変更した。その理由について、担当課長は「自律的というのは“自分で考えて実行”するという意味だが、“自由奔放”なイメージも含む。そういう労働者が制度の対象ではない。誤解を招くので“自由度が比較的高い人”に修正した」と回答した。これはイメージの訂正ではなく、制度対象となる労働者の範囲を広げたことを意味する。実際、今回の提案の要件をみると、従来繰り返し示してきた、①労働者が追加の業務指示について一定範囲で拒絶できるようにすること、②労使で業務量を計画的に調整する仕組みを設けていること、など、長時間労働の最大の要因とされる「業務量コントロール要件」を削除している。これは従来の主張との大幅な違いであり、審議経緯を無視した暴挙である。
また、審議会で労働者側委員から再三質問があったにもかかわらず、「ホワイトカラー労働者」の具体像・概念規定はぼかしたままとしている。対象労働者は、労使委員会などの労使自治で決定する枠組みとしていることからみて、意図的にそうしていると考えられる。これでは営業職、研究職などの職種による歯止めはきかなくなり、広範な職種に適用されるおそれがある。
とにかく、考えていただきたい。業務量を自分の権限では制御できない労働者が、時間の使い方の自由だけを与えられ、成果をあげることを求められたら、何が起こるか。使用者委員が審議会で述べたような「早く仕事を仕上げたら、所定内労働時間を気にしないで、早く帰宅できる」などという牧歌的な労働世界は、まず、実現しないだろう。早く仕事を仕上げようものなら、使用者は、次々と業務量を追加していき、それをこなして成果をあげることを当該労働者に求めるだろう。その結果、健康を損なうところまで追い込まれてしまう労働者が大量に生み出されることになるだろう。なにせ、残業支払いというコストを気にせず、健康障害を引き起こすことに対する使用者責任も気にしないで、「自由度の高い労働者」に仕事を任せることができるのだから。もちろん、労働者が健康を損ない、労働能力を失ってしまうことは、企業にとってマイナスである。しかし、昨今の経営者は、そうした中期にわたる問題を念頭において経営にあたることが苦手である。従業員軽視、株主重視のスタンスで、短期間に業績を上げることを目標としてしまい、企業の持続可能な発展を実現するための条件を、見据えることができないからである。
なお、この制度の対象要件に合致した労働者は、労基法32条を含め、労働時間の規定をすべて除外する構成となっている。「制度の要件」に合致しない場合は、32条や37条(割増賃金)違反が成立するが、逆に言えば要件さえクリアしていれば、後述する「決議事項」の不履行や「休日確保等」の不履行があっても、直ちには違反を問えず、改善命令を経て、従わなかった場合にだけ、罰則があるとの構成になっている。罰則付きの強行規定である労基法を大きく変質させる法改悪といわざるをえない。

(1)制度の要件について
適用除外制度の対象者の要件には、取締りにはまったく向かない項目が並んでいる。ⅰの「労働時間では成果を適切に評価できない業務」という表現は、今日の人事考課の実態にそくしていえば、あらゆる業務にあてはまる。技能系の時給労働者であってもその単価は能力の伸長に応じて決められるとされているケースは多く、要件に該当してしまう。そもそも、人事考課上の扱いをもって、労働基準法の適用除外の対象要件としようする発想が間違っている。労働時間で評価しない労働者に対しても、労働時間を規制し、健康を確保することは大切であり、それこそが労基法の役割ではないか。ⅱについては「業務上の重要な権限及び責任を相当程度伴う」とあるが、相当程度とはどういうことか。刑罰法規として運用不可能であり、不適切である。ⅲ「業務遂行の手段および時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこと」も、実態としてほぼ全ての労働者に当てはまりかねず、要件として成立しない。結局、ⅳの年収要件のみで労働時間規制を全面的に適用除外するものと見ざるをえない。

(2)労使委員会の決議事項について
 決議事項の医師の面談について、申出要件を求めていることは問題である。申出を行わずに過労性疾患にかかったときには、自己責任を問われかねない構造となっている。しかも80時間を超えて働く労働者は多忙ゆえに受診しない傾向にあることが、厚労省調査でも明らかとなっており、申出要件では、健康・福祉確保措置は機能しないことは明らかである。これでは使用者の安全配慮義務を軽減し、労働者だけに健康管理の責任を押し付けることになってしまう。使用者が、無理な業務量や納期などを命ずることで、労働者の健康を損なうことが問題の根幹にあることをふまえない措置である。また、医師との面談を行ない、「今のところは問題なし」と診断された労働者は、引き続き80時間を超えて働いていいとなるのか。健康障害が発見されて、はじめて長時間労働を抑制する診断がだされるというような仕組みでは、「報告案」の前書きの趣旨にそぐわないのではないか。

(3)制度の履行確保について
休日の確保については、4週4日以上、年末年始、祝日、夏休みなどを含めて年間104日を確保できるような法的措置を講ずるとしているが、このハードルはきわめて低いといわざるをえない。この規定の範囲内でも、休日をかためて、特定期間に集中して長時間労働をさせるようなことが起きた場合、健康障害がおきる可能性は否めない。労働者が当然享受してしかるべき程度の休日日数保障をもって、時間規制を適用除外され、時間外割増賃金を失い、さらに健康障害がおきる可能性も高くなるなどというのでは、あまりに労働者にとって不利な条件といわざるをえない。
 実効性があるかどうかについても、疑問がある。行政官庁が、使用者に対し改善命令の指導をし、それに対し「従わなかった場合には、罰則を付す」とあるが、企業が従う姿勢を示してさえいれば、違反と扱うのは難しい文案となっている。また、改善命令は行政不服審査法の対象となり、60日以内に不服申立をしておけば時間が稼げる。この間、企業は監督官の臨検によって直ちに違反を指摘されることを徹底して嫌ってきた。「報告案」の方法なら、ただちに違反の是正を指導されることはなく、使用者は、いいかげんな管理をしていても、「安心」していられる。
 
3.「企画業務型裁量労働制の見直し」について
 本事項は、企画業務型裁量労働制が、中小企業での使い勝手をよくするために規制を緩和せよ、との中小企業の使用者委員の要求をそのまま取り入れたものである。
そもそも「みなし労働時間」は労基法の例外規定である。管理がとりわけ困難な業務や、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務に関して、例外的に認めるものであり、適用するにしても、労使委員会での協議からはじまって多くの制約を課すことで、労働時間規制の緩和が不当に拡大することを防いでいる。それを、中小企業に限っては、「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務」に「主として従事する」労働者については、「当該業務以外も含めた全体についてみなし時間を定める」ことを可能とするなどということは、例外規定という性格を180度変質しかねない。「主として」との文言が、刑罰法規としての規制力を無にするに等しく、実務上、違反を断定できなくなることも含め、みなし時間で多くの不払い残業を生むものであり、認めるわけにはいかない。
労働時間の状況及び健康・福祉確保措置の実施状況に係る定期報告を廃止するなどというのは、「報告案」の目的である「長時間労働の抑制」にそぐわない措置であることはいうまでもない。

4.「管理監督者の明確化」について
 名ばかりの管理職が労基法の「管理監督者」とされ、労働時間規制の適用を除外されている問題は広範に見られ、裁判も起きている。審議会においても、使用者委員ですら、そうした不当な運用実態があることを認める発言をしていたはずである。厚労省はこの点について、肩書きでなく実態で判断するとして一定の基準を示している。「明確化」が必要なのは、各企業が雇用管理・労働時間管理の実践の場面で、厚労省基準に従った「管理監督者」の範囲確定をしているかどうか、である。ところが、「論点報告案」はこうした問題には目もくれず、現在、都市銀行の管理監督者の解釈(昭52.2.28)で認められている「スタッフ職への適用除外」を、他産業へと一般化しようとしている。このことは、「スタッフ職」と呼称される多くの労働者が、不当に時間規制の適用除外とされる可能性を招くものであり、「自由度の高い働き方にふさわしい労働時間制度」とあいまって、時間規制の適用除外の範囲を拡大し、長時間労働・過労死・少子化を助長するものである。

Ⅱ 労働契約法制について 

1.労働契約の成立及び変更について
現行法では、就業規則の作成・変更をするさいに、「労働者の過半数を代表するもの」の「意見を聞く」という手続きをとれば、あとは使用者の判断で制定・改廃を行うことができるようになっており、労働者代表の意見への「尊重」や「配慮」も求められていない。労働契約は労使の合意によって成立し、または変更されるという「労使合意原則」を、労働契約法の基礎におくというのであれば、合意を成立させる上で重要な、労使の実質的対等の保障についての規定を充実させることが必要である。現行制度では、団結権規定が労使対等保障の核となっているが、現場では労働者の団結権行使を嫌悪した使用者の嫌がらせが横行している。この実態をどう解消するのか、罰則強化を含めた法改正が求められる。また、未組織の職場においては、労働者代表制度のあり方、過半数労働者代表の民主的な選出方法のあり方、その実効性を担保するための制度的保障(労働者代表の身分の保障や能力開発、活動のための時間的経済的保障など)についての十分な検討が必要である。だが、今回の労働契約法制の検討にあたっては、「在り方研究会」も含め、これらのことは何ら検討されていない。
就業規則に法的効力を与えるのであれば、少なくとも、上記の条件整備を先に整えなければならない。ところが、「報告案」は、現行の就業規則をめぐる法的措置の問題は放置したまま、「合理的な労働条件」を定めた就業規則がある場合には、「就業規則に定める労働条件が、労働契約の内容となるものとする」とし、そこを基盤に、使用者に有利な変更法理を築いている。使用者が就業規則の変更を行い、その内容を労働者に「周知」させていた場合、「変更が合理的なものであるときは、労働契約の内容は、変更後の就業規則に定めるところによるものとする」という言い方は、かつて「合意が成立しているものと推定する」等としていた、「推定」規定でもなく、法律によって“みなしてしまう”規定となっている。合意成立が「推定」されるかどうか、にかかわる反論・反証の余地も、これによって封じられ、以前の提案より、さらに労働者にとって不利なものとなっている。
「『合理的なもの』であるかどうかの判断要素」が、ここで重要となるが、「報告案」がその中身として挙げているのは、「ⅰ労働組合との合意その他の労働者との調整の状況(労使の協議の状況)」、「ⅱ労働条件の変更の必要性」、「ⅲ就業規則の変更の内容」の3つと、「変更に係る事情」にすぎない。ⅰの「労働者との調整の状況(労使の協議の状況)」などというものは、“協議はしたが、物別れにおわった”ケースでも該当し、使用者の一方的な労働条件切り下げを正当化することになる。また、ⅲに関しては、「変更の内容」などと曖昧書き方にとどめており、最高裁判例で示された、労働者に対する「代償措置の有無」や「不利益の程度」の明示は避けられている。これでは、現行の判例法理の水準を後退させるものであり、認められない。
「報告案」は、自ら「労働契約は、労働者及び使用者の合意によって」成立・改廃されるというが、以上の規定は、自ら掲げた労働条件の労使対等決定原則を、自ら崩すものといわざるをえない。

2.労働契約の終了等について
(1)整理解雇について
経営上の理由による解雇(整理解雇)については、「人員削減の必要性」「回避するための措置の実施状況」「対象労働者の選定方法の合理性」「整理解雇に至るまでの手続き」のひとつひとつをきちんと「要件」と認め、安易なリストラ解雇をさせないことが大切である。ところが、「報告案」は、整理解雇についての規定をすべて削除している。「素案」では、上記の4点の重要性については認めながら、それらが「要件」なのか「要素」なのかを明らかにしようとせず、その他の事情を含めて「総合的に考慮」するという立場をとっていた。これでは、判断ポイントを明示しながら、運用面で曖昧にされてしまう可能性があるため、4「要件」を厳格に適用した上で、初めて整理解雇は認められることとする規定を労働契約法の中に盛り込むべきである。

(2)解雇に関する労働関係紛争の解決方法について
「報告案」は、多くの労働組合のみならず、中小企業からも反対がでている解雇の金銭的解決の仕組みを、再び検討の俎上にのせている。裁判において解雇が無効と判断された場合、職場復帰をとるか、金銭的解決をとるかは、勝訴した労働者側の選択に任されるべきことがらである。労働者の意向にかかわらず、違法解雇を行った使用者側の発意によって、一定の金銭給付によって職場から労働者を排除することを可能とするような制度などというものは、そもそも正義の観念に適わないものである。さらにいえば、排除したい労働者がいた場合、裁判で違法・無効と判断されうるような手段によってでも、その労働者を解雇し、金を払って企てを完遂しようとする使用者は、今の職場の実態を考慮すれば、いくらでも現れるであろう。そうなれば、職場でまともに意見を言おうとする労働者は存在できなくなる。本制度は、日本の労使の力関係を大きくゆがめる可能性があり、絶対に認めるわけにはいかない。
なお「報告案」は、「労使の納得できる解決方法」として、この制度を追求してはどうかと提案しているが、労使が実質的対等を保障されない場面で、この制度を利用する合意がとりつけられる恐れがあるため、こうした提案でも認めるわけにはいかない。例えば、就業規則に設定される労働条件の中の一条項として、金銭解決制度の活用が設けられたとしたらどうなるか。労働市場で労使が出会う場面において、労働者は、使用者に比べて圧倒的に弱い立場にある。大半の労働者は、明日からの生活のため、就業するに際して、解雇の金銭解決制度などの不利な条件を提示されても、それに同意せざるをえない。それをもって、解雇の金銭的解決制度が発動されるということになれば、訴権の侵害につながる。労使の納得などというものは要件にならず、あくまでも、この制度の提案は廃棄するべきである。

(3)有期労働契約について
「報告案」は、期間の定めのある労働契約について、「不必要に短期の有期労働契約を反復更新することのないよう配慮しなければならないこと」と実に控えめな提案をしているにすぎない。全労連は、すでに「有期労働契約の在り方に関する意見書」を労働条件分科会に提出しているが、そこでも述べたように、有期労働契約が年々増加している理由は、労働者のニーズが増えているからではなく、もっぱら、使用者にとって都合のいい契約形態だからである。労働市場に正規雇用の求人が十分にない今日、多くの労働者は「やむをえず」有期労働契約で就業している。こうした場合、使用者は、雇い止めを脅しにして、労働者の交渉力を低下させつつ、反復更新で勤続の長期化をはかり、労働者のスキル・アップの果実を、低廉な賃金で手中にすることができる。つまり、有期労働契約は、労働者の団結権行使や交渉力を阻害する手段として、使用者本位に活用されているのが実情である。解雇規制をいくら高めても、有期労働契約の規制を強めなければ、雇用をめぐる労使の対等は成立しない。したがって、労働契約法制で提案された、「報告案」の不十分な内容は、取り下げ、強制力のある労働基準法において、以下の法的整備を行うべきである。
①恒常的業務をおこなう労働者の労働契約は、フルタイム勤務者であろうと、短時間勤務者であろうと、期限の定めのない労働契約でなければならないとすること、②有期労働契約は、短期間に終了する業務に限定すること、③有期労働契約を一定回数反復更新した場合は期限の定めのない雇用契約とみなすこと。
多くの「非正規」雇用労働者が、ワーキング・プア状態に陥っている現状を改善するために、全労連は、有期労働契約に係るこれらの法規制を至急行なうよう、強く求めるものである。
以上

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