糾弾会に公務員が参加してるケースがまだみられるが、「公務ではなく違法」であることを認識すべき
弓矢先生を支援する会ニュース「はらから」06年8月1日号
2006年3月20日
弓矢人権裁判
たたかいを大きく前進させる勝利判決
三重県は慰謝料330万円を支払え
弓矢裁判に対する日頃からの物心両面にわたるご支援に、心より感謝申し上げます。ありがとうございます。
裁判が名古屋高裁に移って以来、「支援する会」では、情勢にあわせた「闘争ニュース」をつくり、六回にわたる口頭弁論を闘うとともに、三十回にのぼる弁護団会議を積み重ねてまいりました。
今回、高裁判決をふまえ、「はらから」第18号を発行し、判決の内容をかいつまんでご報告させていただきます。
名古屋高裁は、一審判決(慰謝料二二〇万円)を変更し、三重県に対し慰謝料三三〇万円を支払え、との判決をくだしました。控訴審でのたたかいは、相当大きく前進し、勝利したといえます。
しかし、高裁判決内容には、原告弓矢の行なった町内会分離運動と、その際の発言を、「比較的重大な差別事件」と判断したり、解同の確認・糾弾行為を免罪するという、相矛盾した内容の判決になっています。
現在、双方が最高裁に上告し、たたかいが続いています。
弓矢事件
名古屋高裁判決の問題点と課題
名古屋高裁の判決主文
一審原告(弓矢)の控訴に基づき、
(1)一審被告三重県は、弓矢氏に対し、金三三〇万円、及びこれに対する平成十二年十二月八日から支払済みまで年五分の利息を支払え。
(2)弓矢側の三重県に対するその他の請求を棄却する。
一審被告三重県側の控訴を棄却する。
三重県教委の違法性と賠償責任の根拠
(積極的な勝訴部分)
(1)高裁判決は、県教委職員と校長・同推教員の違法について五点あげて賠償責任を示しました。
①同推教員Mが「糾弾をうけてボロボロになれ」と机を蹴って脅迫したことは違法。
②解同の確認会のあと「自分を見つめて」の加筆、訂正を強要したことは違法。
③県教委・校長が確認・糾弾会へ出席を強要したことは違法。
④同推教員M・Iが糾弾会の準備行為としての反省文、また糾弾会後の「感想文」を書くことを強要したことは違法。
⑤同推教員M等が弓矢氏の居住団地に「自分を見つめて」を勝手に配布しプライバシーを侵害したことは違法。
以上5点の行為によって弓矢氏は精神的苦痛を被ったので三重県には賠償責任がある。
(2)確認・糾弾会への参加による精神的苦痛は参加を指示した県教委の責任
解同の確認・糾弾行為で受けた精神的苦痛はかなり大きいと考えられるが、その責任は確認・糾弾会を開催した解同にはなく、参加を強要した県教委と校長・同推教員にあると判示しています。ここには論理の矛盾がありますが、判決文の上では、解同の確認・糾弾会への参加による精神的昔痛を認めています。しかし、解同の責任は免罪しています。
解同による糾弾行為を容認し、免罪した判決。
(判決の誤りの部分)
判決では本件発言及び分離運動を「比較的重要な差別事件」と断定し、公益目的を前面に出して確認・糾弾行為の違法性を認定していません。その理由として、高校の教師が起こした問題であること、比較的重要な差別事件であること、私的問題でなく社会的問題であること、違法にならない確認・糾弾はありえること、そして、原告弓矢が虚偽を述べ隠蔽工作をしたことをあげています。
しかし、その多くは論拠が示されていないうえに、差別の判断基準も示されていません。
判示では、「この限度に止まる限りはこれらの行為が直ちに違法であるとはいえない」として解同の糾弾行為を免罪していますが、他の部分では一般論として内心の自由への違法性を認める判示がされています。
二つの判示の整合性をつくろうために判決では、
①解同は義務のないことを強要していない。強要したのは県教委である。また、原告弓矢氏もその内心はともかく外形的にはこれに任意に応じたように行動した。
②内心の差別する心理に深く立ち入っていない。「無理して答えを出さなくてもいいから、率直に答えてほしい」と断った上で「心の根底に、差別が入ってきたのは、いつか」と質問している。
③「両親の事が全く欠落している」と質問したのは虚や作り事をせずに率直な話をしてほしいという趣旨に理解出来るようなものであると。
この三つの事項をあげて、糾弾容認の限度に止まると判示し、解同の糾弾行為の違法性を免罪しているのは解同力ばいと言わざるを得ません。
四〇〇名もの同僚や関係者の前で、誰からも弁護されることもなく「差別者」としてさらし者にされること自体人権侵害であるという常識と法務省見解への思惟が欠落しています。
勝訴判決にある成果部分
①糾弾行為による自己変革を促すことは違法。
判決には、解同の糾弾行為を容認する誤った判示がありますが、無原則に容認したのではなく「この限度に止まる限りはこれらの行為が直ちに違法であるとはいえない」として規制が設けられています。その限度は「批判し反省を求め、真実を明らかにするよう求める」ことであり、それをこえて「被糾弾者の自己変革を促す目的」となると違法となることを示しています。
従って解同は糾弾方針で『糾弾は教育である』と位置づけ、『差別意識をなくすことによって人間的変革を求める闘い』 「部落の解放をめざす人間に変わっていくことを求める闘い」と位置づけていますが、これらは限度を越えるものとして違法いうことができます。
②「確認・糾弾会に公務員が参加することは公務とはいえず違法。
「糾弾学習会」と称する糾弾会は通常の学習会とは無縁で、三重県教委と解同との連携に一定の規制が示されました。
今後、糾弾会を学習、研修の場とすること、「糾弾会は教育の場である」として参加を呼びかけることにも一定の歯止めをかけることができます。
糾弾会に二二〇名余りの教職員が出張・研修で参加したことは違法とされました。この当たり前の道理が認定されたことは大きな成果であり、今後、このような事象を起こさせない闘いの武器となります。
③確認・糾弾への出席・出席準備の指示、事後報告をさせる行為は違法。
確認・糾弾を前提として反省文を書かせることやその準備のための指示・指導は違法であることが示されました。事象によって指導・研修が必要な場合でも、あくまでも校内(内部)研修の範囲であって確認・糾弾行為と連携する場合は準備行為として違法となると解することができます。
三重県では学校現場において、人権・同和教育と関わって解同幹部も加わった「関係者会議」が開かれることがありますが、解同の確認・糾弾と結びつく場合は、その会議自体が違法とされました。
④確認・糾弾会への参加を求める職務命令は違法。
確認・糾弾会への出席を本人の意思の如何に関わらず、県教委や校長から出席をもとめる行為は職務命令として理解するのが相当であり、これは違法であることが明示されました。
仮に、本人が出席を了解していても管理職からの出席要請は違法です。
それは確認・糾弾行為の違法性によるからです。
⑤糾弾学習会に教員の参加を強要することは行政の中立性に反する。
糾弾会に学校行事を変更して、教職員全員を参加させることは、行政の中立性に反することであり問題があると判示したことは重要です。
これは②の「民間主催のその相当性や適法性に異論のある確認会・糾弾会への公務員の出席は正当な公務の範囲を逸脱するというべきである。」という判示に運動することであり、確認・糾弾会への参加は行政の中立性に反すると判示したことになります。
行政関係者の参加も当然、行政の中立性に反することになり、松阪市の職員が糾弾会場を手配したことも行政の中立性からして当を得ないとしました。
⑥反省文、「自分を見つめて」の作成を強要したことは違法
解放大学卒業生のサンプル「自分を見つめて」を示して自己批判書(自分を差別者として鰍海させるもので糾弾会向けの準備物)を書かせたことは違法であると判示しました。
確認会で解同幹部から「両親の差別心について書くように」いわれ、それを受けて同推教員M・Iが強要して書かせた「自分を見つめて」・~・の強要は、準備行為で違法であ
るとしました。しかし、解同との共謀による解同関係被告らの違法は認めなかった。
弓矢氏は九回書き直しをさせられていますが、・以降が違法で、・~・は違法でないと判示したことは「糾弾会に向けた準備行為は違法」とした判示と矛盾するものです。
⑦「自分を見つめて」を居住団地に配布したことは違法行為である。
「自分を見つめて」⑩を居住団地に配布した行為はプライバシーの侵害で違法と判示しました。「一緒に配りに行った」ように外形的には認めていても、意に反した違法な行為と判示したことは重要です。弓矢氏は六月ハ日以降、外形的には屈服し、容認、謝罪することで問題が解決すると考えましたが、これらは確認・糾弾を恐れての意に反した行為であり、このような精神的苦痛を生み出した解同・県教姿や学校、同推教員の違法な共謀行為を認定すべきでした。
⑧被った精神的苦痛と大きい因果関係がある
まず、弓矢氏の「精神的苦痛は確認会・糾弾会の内容、そこに置かれた一審原告の立場にかんがみるとかなり大きい」と、確認・糾弾会が精神的苦痛を与える場であったことを認めています。(しかし、主催者である解同の責任は不問にしているのが問題です。)を余儀なくした同推教員M・I、校長及び県教委の担当者の行為は、精神的苦痛と大きい因果関係があるから賠償責任を負うとしています。ここにも解同を不問にすることによる矛盾があります。
⑨「糾弾を受けてぼろぼろになったらええんじや」と同推教員Mのとった行動は違法。
律地裁での一審では認定されなかった違法性です。六月八日の段階で確認・糾弾会を前提に、原告を畏怖させ脅迫する行為だと判示したことは、その後の解同・県教委・学校の共謀行為の出発点を認めたことになります。(しかし、判決全体では多くの矛盾を含みながらも共謀性を認めていません。)
⑩三重県の基本方針や、同推委員の地位や権限についての判断は避けた
三重県同和教育基本方針や人権教育方針に、運動団体との連携をうたい、同推教員の地位や権限が学校教育法に違反し、今回の事案の原因になっていることが、裁判では争われましたが、判決は判断を避けました。
判断からあえて逃げた感じがしますが、「方針の違法性や同推委員の地位や権限に関する問題点は(あるが)、直接影響を与えるものではない」と、違法性や問題点があることを否定してはいません。
学校現場では解同系同推教員(人権教育推進教員)が指導・監督するケースが多いだけに、横暴を批判する千がかりにすることができます。
最高裁へ上告受理申立理由書を提出し是正を求める。
弓矢さんと弁護団は、四月三日最高裁に上告受理申立をしました。高裁判決に含まれる多くの矛盾点、審査不備の中で特に四点にしぼって上告理由中立書が作成されました。申立書は五七頁に及ぶ膨大なものであり、事実と道理に基づく主張は、説得力と今後の運動や内心に関わる人格権(プライバシー、名誉権)を守る闘いでは示唆に富んだものとなっています。
第1点 原判決は団地内にゴミ、排水路等の生活改善上の問題があり、原告の呼びかけで団地住民も同意し、分離運動が起こったことを認定しながら、本件発言と運動を「比較的重大な部落差別事件」であると判断し、解同による確認・糾弾行為を受忍しなければならないほどの比較的重大な部落差別事件であると判断したことは重大な誤りであり、原判決は、差別の判断を誤り、憲法十四条を解釈した最高裁判例に反するので破棄されなければならない。
第2点 原判決は、確認会・糾弾会への県教委の出席強要が違法とされ、かつ、そこで一審原告弓矢が受けた精神的苦痛がかなり大きいものがあると認めながら、確認会・糾弾会を主催し、一審原告を追及した解同関係の被告の責任を認めなかったことは重大な背理であり、違法である。
第3点 「自分を見つめて」⑦~⑩の書き替えの強要等は、二回にわたる確認会における解同関係被告らの追及を受けて、同推教員Mらの手で行なわれたものであって、そこに両者の共謀に基づく違法が認容されて当然であるのに、同推教員らの責任のみを認めて、解同関係被告の関与行為を認めなかった重大な違法である。
第4点 「自分を見つめて」⑦~⑩の作成強要の違法が認容されたからには、同じように、確認会・糾弾会の準備行為として作成された「自分を見つめて」①~⑥の作成強要の違法性も認められなければならないのに、それを認めなかった原判決の判断の違法である。
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