所感雑感06.2-7
月刊誌 「地域と人権」 06年7月号 所感雑感(834字)
いま憲法改悪につながる教育基本法の改定をゆるすかどうかが大きな問題としてある。 本来、国民一人ひとりがどう人格や思想を形成していくかという問題は、国民の自由にまかされてよい領域である。教育は、国民のこの精神的内面的価値形成(人格形成)を左右するほど大きな影響を与えるから、国民の憲法的自由(第11条から13条)が確保されなければならない分野である。このような見地にたって、教育基本法第10条は、国民の精神的内面的価値に対する権力の不介入という原則を基本に制定されたものである。教育の実体をつくる仕事は、国民の自由に委ねられている。 教育行政に要請されるのは、国民の精神形成の自由に干渉せずに、国民の学習権を保障するサービス行政であり、「統制のない援助」が神髄といえる。 教育基本法第10条1項は、「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである」とうたっているが、この立法の趣旨は、教育の自主性の確保を述べたものである。教育の自主性確保は、なによりも教育の本質から要請される。教育が真理に忠実であり、個人の尊厳を重んじて個性豊かな人間を育成するためには、様々な創意工夫が必要であり、自由ではつらつとした教育こそ、発展が期待できる。児童生徒学生一人ひとりに行き届いた教育を行い、その学習の権利を保障するためにこそ、教育は自主的・創造的に行わなければならない。 「不当な支配」とは、歴史的には、教育が自主性を失うような天皇制国家の権力支配を意味しているが、そればかりでなく、教育の自主性確保の要請から、権力的強制がなじまないこと、教育の非権力性を明らかにしたものである。 にもかかわらず、与党・民主党の改定案は、徳目をあげ、公権力による教育統制を柱として、国民の内面形成に直接介入する、時代逆行の代物である。 まさに恩恵的「教育の施し」が国民大多数の低所得階層になされ、格差拡大、競争の激化、社会的連帯の破壊へ導かれようとしている。(新井)
「人権」「暴力」で威圧、財団理事長逮捕。「行政、食い物に」捜査幹部。 「飛鳥会」理事長による業務上横領事件。今年1月には、大阪地検特捜部が摘発した造園事業の談合事件で「大阪府同和建設協会」所属企業への優遇措置が発覚。芦原病院(浪速区)への巨額の無担保融資や補助金不正流用が表面化するなど、大阪市と「解同」による不正の実態が次々に明らかになっている。 大阪市が、事実上の同和対策として、有料橋の料金所のモニター監視や、地域の清掃業務など5事業を、法人格のない市内12地域の「人権協会」に随意契約で委託していた問題も。02年3月から4年間の発注総額は計8億3000万円。このうち4事業は、市の外郭団体を迂回させた再委託で、横領事件に発展した財団法人「飛鳥会」への駐車場管理業務委託と同じ。市は「いずれも不適切だった」として、3月末に廃止していた。 30年もの間、委託先であった「飛鳥会」理事長は解同飛鳥支部長を務める。 85年1月、大阪府吹田市のマンション入り口で、暴力団山口組組長(当時)が射殺された事件では、射殺された組長が出入りしていた現場マンションの部屋が、この理事長名義だった。組長はマンションの出入りの際、理事長を名乗っていたという。 また、97年9月には、飛鳥支部の事務所に銃弾5発が撃ち込まれる事件が発生した。神戸市内のホテルで当時山口組ナンバー2の宅見組組長が射殺された事件の約1カ月後で、射殺事件への関与が取りざたされた当時の山口組直系組長(破門)と理事長が昵懇の間柄だったとの評判もあった。85年ごろまでは山口組系暴力団の幹部組員でもあったという。 「迫る捜査を前にしてようやく、長年の慣行を根本から見直す作業に着手した格好」だと評される。 しかし「飛鳥会」が府に提出する決算書作成を市職員が代行していたり、財団の会計を三菱東京UFJ銀行側が担当していたことも判明しており、芦原病院でも行政が不正に手を貸していた。 この不正の浄化は、市民の世論が決するのであり、行政や解同、警察にも期待ではできない。(新井) 杉浦法務大臣は4月7日午前の閣僚懇談会で、人権擁護法案の今国会提出を断念し、内容を大幅に見直して次期通常国会で再提出を目指すことを報告した。今後、省内に法相を長とする検討チームを設置する。との報道がなされた。 記者会見で法務大臣は、提出断念の理由について「自民党での議論がほとんど進んでいない。ほかの重要法案もあり、とても提出できる状況にない」と。 そのうえで「法案は大幅に手直しをする」と。 人権問題に携わる人権擁護委員に国籍条項がなく、外国人でも委員になることができることについて、「修正が必要だ」と述べたほか、メディア規制条項についても「マスコミとの協議の場を設けて意見を聞きたい」と語った。 一方、昨年10月に制定された鳥取県人権救済条例の6月施行を凍結する条例案が県議会で全会一致で可決された。 マスコミは、このまま施行されると、人権救済どころか、人権を侵害する恐れが出てくる。県側が施行に待ったをかけたのは、妥当な判断だといえる。との立場で一斉報道。 「毎日新聞」は3月27日の社説で「人権条例凍結 政府・与党の教訓にしたい」と次のように述べる。 「基本的人権の尊重」は憲法にも規定されている。だが、現実に人権の侵害を法的に規制するとなると、さまざまな問題が出てくることは人権擁護法案の議論を見ても明らかだった。普遍的な価値である「人権」を一つの県だけで定義づけ、救済しようというのにも無理があった。 そもそも、県弁護士会から「憲法違反のおそれすらある」と指弾された条例案を成立させたことが間違いだった。 県は条例の施行を凍結するとともに、弁護士などによる検討委員会を設置し、県内の人権侵害の実態を調査したうえで条例を見直すことにしているが、小手先の手直しで県民の理解が得られる新たな条例ができるとは思えない。人権侵害の事例を直視し、その救済のあり方を時間をかけ抜本的に議論する必要がある。 政府・与党には、鳥取県のケースをきちんと検証し大きな教訓にしてもらいたい。 同感。言論表現の自由を侵しかねない「差別の法規制」という法案の「根幹」を先ず取り払うべきだ。(新井) 鳥取県議会の2月定例会本会議は2月24日から開かれ、施行凍結の条例が提案されている県人権侵害救済条例について質問が相次いだ。 片山知事は条例の見直し期限を設けない方針を繰り返し強調した。 「条例に罰則があるので、運用に法曹界の協力は不可欠」とし、「協力を得るためには6月施行を停止し、抜本的見直しをしなければならない」「法曹界抜きの調停タイプにしたいなら、現条例には罰則があるので、枠組みを変えなければならない」と。 また、実態把握の手法の一つとして、法曹などを含む見直し検討委員会の了解を前提に、県民から人権侵害事例の募集を検討していることも県人権局長が明らかにした。 県議任期中の来年4月までの見直しを求められたのに対して、片山知事は「どうしても任期中にと言うなら、議会がイニシアチブをとって見直してほしい」と、これも繰り返し突き放しの答弁。「いずれにしろ条例改正が必要である」とした。 「解同」等6団体は、6月施行を求める署名を議会がはじまってから行いだした。大方の県会議員の質問は要領を得ず、「解同」らの効果があったのかと疑う。 「法曹界やマスコミによる条例反対の声に、施行を待っている弱者の声がかき消されている」「問題があれば、その時点で見直せばいいし、勧告や公表などしなくても、調停レベルでいいではないか」と、あくまで6月施行にこだわりを見せたのである。 また、条例反対グループによるチラシ「差別利権と決別する勇気を」「行政教育への不当な介入をする団体と決別しませんか」の全県下への新聞折り込みも一部の文言(部落解放同盟という固有名の削除)について「誹謗中傷がある」として、手直しが求められたが、何とか再開に至ったようだ。 この間、鳥取県弁護士会、日本弁護士連合会をはじめ、広島、岡山、山口、島根、静岡等の各弁護士会、さらには近畿弁護士会連合会まで「期限を設けず、条例の必要性と内容について十分な検討を行うべきだ」と決議をあげるほどに、極めて重要な問題なのだが、推進者側は真摯に受けとめているのだろうか。(新井) 秋篠宮妃(39才)の懐妊が2月7日明らかになった。秋篠宮では長女(14)、二女(11)に続き3人目となる。出産は9月下旬から10月上旬ごろの見通しで、男子が誕生すれば、皇位継承順位は現行の皇室典範上、皇太子(45)、秋篠宮(40)に次いで3位となる。そのため、女性・女系天皇を是とする皇室典範改正案の論議は、秋に持ち越しとなった。 昨年11月24日に「皇室典範に関する有識者会議」は「報告書」をまとめた。 「問題の所在」は、「現行の皇室典範を前提にすると、現在の皇室の構成では、早晩、皇位継承資格者が不在となるおそれがあり、日本国憲法が定める象徴天皇制度の維持や長い歴史を持つ皇位の継承が不確実になりかねない」「安定的な皇位の継承」が課題とされた。 そもそも日本国憲法第1条は、「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く」とし、第2条で「皇位は世襲」と定める。 金森徳次郎国務大臣は、「天皇ハ我々ノ憧レノ中心デアリ、心ノ奥深ク根ヲ張ツテ居ル所ノ繋リノ中心デアル」(昭和21.7.1衆議院帝国憲法改正案委員会)と、国家と国民統合に位置づけた。 憲法上は「世襲」として「男女ノ区別ニ付キマシテノ問題ハ、法律問題トシテ自由ニ考ヘテ宜イ」としたが、皇室典範では「男系の男子」と明治典範と同様とした。 憲法は、「国民の総意」で、天皇制の存続や継承者の問題を議論・方向付けすることを示しているもので、議論の機会を大切にしたいものだ。 三笠宮寛仁(皇位継承第5位)は、父方をたどっても天皇につながらない女系「天皇」の容認について「(国民が)正統性を認めるだろうか」と批判している。(産経新聞) 一方、麻生外相は1月28日の講演で、首相の靖国神社参拝に関連して、「天皇陛下の参拝が一番」「英霊の方々の立場に立てばこういうことではないか」と憲法尊重義務を逸脱する不見識な発言をしている。 統治機能としての天皇制だが、イギリスでは「王子」が紛争地域に配置されるなど国民の一員たる行為も行っている。タブー無き議論を望む。(新井) 1月20日に開会した第164回国会の施政方針演説で小泉首相は、「新しい時代の憲法のあり方について議論を深める時期だ」とのべ、改憲手続きの国民投票法案を「整備されるべきもの」と踏み込んだ。 また教育基本法については、「速やかな改正を目指し、精力的に取り組」むこと、「習熟度別の指導、学校の外部評価、保護者や地域住民の学校運営への参画、学校選択制の普及を通じて、教育の質の向上を図」ると。 昨年8月に文科省が発表した学校基本調査速報によると、一昨年度の「不登校」を理由とする長期欠席者数(年間30日以上)は12万3317人。以前は、長期欠席者の主な理由は「病気」によるものが多かったが、95年度から逆転、「学校嫌い」による欠席が多くなり、04年度は長期欠席者全体の68%が不登校であった(過去最高)。「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」によると不登校のきっかけは「学校生活に起因」36.2%「本人の問題」35.6%「家庭生活」18.5%とされている。 高校ではもっと深刻な実態にある。 大学でも基礎学力の欠如、自ら課題設定の困難など、学び方を手取り足取り教えるところから指導援助がはじまると聞く。 塾では、集団学習から個別の少人数学習にシフトしている。 「学校嫌い」「学校へ行きたくない」という問題はどこから生じるのか。 携帯やゲームなどに夢中になり昼夜逆転の生活が常態化し、食事を摂ることの不規則もあって生活のリズムが乱れ、朝起きることが困難に。そして、起き上がろうとするが、着替えが面倒になり、気力も萎えて寝床から出れなくなる。あのころの学校は面白かったと夢の世界へ。寝ぼけたまま学校へ行っても、携帯や雑談に夢中になり、教員の言葉は上の空、雑談しか耳に入らない。輪切り化された学校の中に居場所がなく、「苦痛」を避けたいと不登校へと誘う。 さまざまな要因が、教育を受ける権利を奪っている。 小泉方針は、教育の分野に一層の競争原理を持ち込むもので、わかりたい、知りたい、楽しい学校に通いたいという子どもらの願い「権利」に、まったく応えるものとなってはいない。(新井)
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