事故の相手に支払う示談金のために自殺に追い込まれた友
自殺:減らぬ自殺者 98年から7年連続で3万人超、「覚悟の死」多く
◇精神科医ら、1000件を分析
自殺者が減らない状態が続いている。警察庁の調査では、98年から7年連続で3万人を超えた。05年も3万人の突破はほぼ確実という。厚生労働省の研究班はこのほど、約1000件の自殺(未遂も含む)を精神科医の視点で分析し、その傾向をまとめた。周囲に相談せず、1度目で命を絶つ「計画的な自殺」が多いことが分かった。研究班は「国民レベルでの、啓発を含めた対策が必要だ」と指摘している。
調査は「自殺企図の実態と予防介入に関する研究」。全国4カ所の救命救急センターに03~05年度に運ばれた自殺者(未遂も含む)1053例について、その心理的な背景や家族環境などを精神科医らが分析した。未遂の場合は本人に直接、既遂(死亡)の場合は遺族や関係者に分かる範囲で聞き取りをした。
研究班はまず、既遂の130例を詳しく調べた。内訳は男性57%、女性43%。年齢による大きな偏りはなかった。未遂を含めた全体では女性が65%を占めた。
何度目の自殺で亡くなったのか調べたところ、回数が分かった人の89%は「1度目」だった。自殺をほのめかす相談を周囲にしていた人は全体の18%にとどまった。「不明」は27%、「していない」人は55%だった。相談しなかった人の割合を男女別でみると、男性は61%、女性は46%で、男性の方が相談を控える傾向がみられた。
病歴では、精神科への通院歴「あり」が41%で「なし」と同率だった(残りは「不明」)。未遂者では「あり」が71%を占め、既遂者より精神科への通院率が高かった。
主任研究者の保坂隆・東海大医学部教授(精神医学)は、自殺で亡くなる人の特徴として「前ぶれもなく、確実に死ねる手段で死を選ぶ『覚悟の自殺』が少なくない」と分析。「未遂者が再び自殺を図らないよう見守ることは必要だが、自殺を図る前に手を打たない限り、自殺者数を減らすのは難しい」と指摘する。
既遂者に目立って多かった精神疾患はうつ病だった。うつ病は投薬などで完治するが、誤ったイメージから受診を控える人も多いといわれる。
一方、未遂者には▽不安障害(神経症、パニック障害など)▽適応障害(いわゆる五月病など)▽人格障害--が多かった。「人格障害」では、若い女性が手首に小さな傷をつける「リストカット症候群」が代表的な症状で、調査でも未遂女性に多く見られた。
◇「働き盛り」襲うストレス
警察庁の調査では、男性の割合と50代以上の割合が増える傾向にある。
高齢社会の到来で健康上の悩みや孤独感を抱く人が増えていることや、経済構造が変化し、職場での人間関係や失業、収入減など「働き盛り」世代を取り巻くストレスが増えていることが背景として指摘されている。自殺者の3~7割はうつ病との推計もある。
◇心の安全週間設け、啓発を--保坂隆・東海大教授に聞く
自殺をどうすれば減らせるのか。主任研究者の保坂隆・東海大教授=写真=は「交通安全週間のように心の安全週間を作り、国民的啓発活動をすべきだ」と訴える。
分かったのは▽1度目の自殺を図った人をケアするだけでは不十分▽精神科医は予防に関しては無力に等しい▽家族や友人の対応にも限界がある--という厳しい現実だった。
一方で、自殺者にうつ病の人が多く見られた。うつ病は自殺のハイリスク要因とされてきた。うつ病に関する知識をもっと広めることで、予防につなげられると考える。
一つには、自分でも気がついていない「潜在的な患者さん」の発掘が必要だ。偏見を恐れて受診しない人も多いとみられるが、うつ病は、抗うつ薬と患者の置かれた環境の調整、休養で必ず治る。知識の普及と同時に、うつ病のイメージを変えなければいけない。
社員の心の健康に無頓着な企業も少なくない。しかし、うつ病で長期休職する社員の休業補償に加え、彼らが働くことで得られる利益の損失まで考えれば、きちんと対策をする方がよほど経済的だ。企業へのそうした啓発も欠かせない。
世界保健機関(WHO)が呼びかける「世界自殺予防デー」(9月10日)はあるが、ほとんど知られていない。毎年、春と秋に「心の安全週間」を設け、全国規模で啓発活動をしてはどうか。
周囲の誰にも気づかれないまま、自殺に追い込まれる人が今後も増えるのは気の毒だ。(談)
毎日新聞 2006年5月22日 東京朝刊
ストップ自殺:対策の法制化を市民団体が要望
自殺問題に取り組む市民団体が15日、東京・永田町の参院議員会館で、超党派の国会議員に対し、自殺対策の法制化を求める要望書を手渡した。自殺者が8年連続で3万人超になる見通しの中、法的根拠のない対策は掛け声だけで終わりかねないと訴えた。議員側は会見し、自殺を社会問題と位置づけ、国や自治体の責務を明記した「自殺防止対策基本法案」(仮称)の大綱案を明らかにして「今国会中に法案を成立させたい」と話した。
超党派でつくる「自殺防止対策を考える議員有志の会」(事務局は武見敬三参院議員=自民=と山本孝史参院議員=民主)の初会合に市民団体が招かれた。要望書はNPO法人「自殺対策支援センター ライフリンク」(東京都・清水康之代表)など全国22の市民団体が連名でまとめた。
要望内容は▽国として自殺対策に取り組む意思を法律で示す▽効果的な予防策のために自殺の実態を調査し把握する▽個人だけでなく社会を対象とした総合対策を実施する--などとしている。
一方、議員有志の会がまとめた大綱案は「自殺は、個人の問題のみに帰せられるべきものではなく、個人を取り巻く社会にかかわる課題である」などと自殺を社会問題と位置づけ、国と自治体、事業主、国民の責務を明らかにするとしている。
議員有志の会のメンバー、尾辻秀久・前厚生労働相は「自殺者が年間3万人いるのは、どこか、わが国に病んだところがあるのではないか」と話した。
毎日新聞 2006年5月15日
ストップ自殺:自殺、8年連続3万人に 「格差社会の影響」指摘も
国内の自殺者が8年連続で3万人を超えそうだ。自殺者は、国が自殺対策の参考としている警察庁の調べで、98年から04年まで7年連続で3万人以上を記録。05年は「自殺」の定義を警察庁より限定的にしている厚生労働省に、昨年11月までに前年比で423人多い2万8240人の報告があったことが判明。このため、厚労省より例年1000~2000人多くなる警察庁の統計では3万人を超すのはほぼ確実になった。「自殺数の増大は『格差社会の影響』」との専門家の指摘もあり、国の自殺対策が改めて問われそうだ。
警察庁は総人口(外国人も含む)を対象にし、遺体発見時に自殺、他殺、事故死などが不明でも、その後の調査で、自殺と判明した場合は計上。一方、厚労省は死亡診断書で自殺とされたケースに限定し対象も国内の日本人だけ。その結果、04年の自殺者は警察庁が3万2325人、厚労省は3万247人で約2000人少なかった。
政府は昨年12月、自殺予防の総合対策を発表。しかし、対策には法的根拠がないため、実体のない掛け声だけで終わりかねないとして、NPO法人が「自殺対策基本法」(仮称)制定に向けて、署名活動を始めている。
野田正彰・関西学院大教授(精神医学)は「自殺者の増大は格差社会の影響が大きい。勝ち組は弱者へのいたわりがなくなり、負け組とされる人たちは挫折感を強く感じさせられている。競争に勝つため、子どものころから相手に弱点を見せられず、本音が話せなくなり、人と人とのつながりが薄れている」と話している。
2006年5月10日
ストップ自殺:昨年の「いのちの電話」、相談最多4万5600件--30代が3割
◇30代3割、じわり増加
全国各地の「いのちの電話」が受けた自殺の相談電話が05年に4万5600件に達し、過去最多になったことが「日本いのちの電話連盟」(東京都千代田区)のまとめで分かった。90年当初まで20代が最も多かった自殺に関する相談は、30代が3割に達し、若年層と中年層のはざまで不安に追い詰められる姿が浮かんだ。同連盟は、若年層の相談の受け皿を拡充するため、来年にも一部地域でメール相談の窓口を設ける。
35年前に東京で始まり、各地に広がったいのちの電話は、91年に35カ所、01年に現在の41都道府県49カ所に拡大。東京など23カ所は年中無休・24時間体制で相談を受ける。
05年の相談総件数は71万3567件。うち、自ら「死にたい」「これから死ぬ」と言ったり、睡眠薬の大量服用後の電話など、自殺の意思やおそれを明らかにした相談は4万5600件(男性1万9244件、女性2万6356件)だった。現在の形で全国統計を取り始めた91年は9909件。以後増え続け、01年は3万1799件だった。
年代別では30代(29・1%)が最も多く、▽20代(21・6%)▽40代(21・0%)と続く。91年は20代(31・8%)▽30代(23・4%)▽40代(14・6%)で、「30代」と「40代」の増加が目立っている。
同連盟によると、年間自殺者が3万人を超えた98年前後から中高年男性の訴えが増えており、斎藤友紀雄常務理事は「定職に就きにくく生き方を確立しづらい若年層が30代まで拡大。また、職場や社会で不安を抱える中高年層が多いともいえる。対人関係などから仕事でつまずいた人が追い詰められている」と分析する。
また同連盟は、電話で直接相手とやりとりができない20代向けに、来年度にも東京と千葉でメールでの相談窓口を開く方針。「ネットいのちの電話」などの名称で、相談員が返信する形を検討している。
◇言葉の絆できれば死なない
1本の電話が、水際で「いのち」をつなぎとめることがある。
◆
「もう死にます。酒と一緒に薬を飲んだ」
年中無休で全国からの相談にこたえるNPO法人「東京自殺防止センター」(東京都新宿区、03・5286・9090=午後8時~翌午前6時)。昨年10月の夜、センター創設者の西原由記子前代表は、30代後半の男性会社員の電話を受けた。ずっと働きづめだった男性は「職場で足をすくわれた」と話す。声がもうろうとしていた。
男性に西原さんは呼びかける。「誇りがあれば生きて」
「いいんです。生命を絶ちたい」
「止めようがありませんね。こうして話しているあなたが亡くなれば、私はつらい」
住所を聞き出すとすぐに西原さんは別のスタッフと車に乗り込んだ。高速道路を使い、約3時間。目的の一軒家に到着したが、呼び鈴に応答はなく、開いていた1階の窓から中に入った。居間の床で男性が普段着のまま寝ていた。脈はあった。ホッとして西原さんはメモを残し引き揚げた。明け方、センターに戻ってほどなく、「来てくれたんですね」。男性から電話が入った。
年に3回はこんな切迫した場合も。駆けつけた後、病院に搬送するケースもあった。
冒頭の男性は後日、「もうあんなことはしない」と事務局に電話を寄せた。西原さんはこう思っている。
「話を聞く人間は、つたなくても本心からの言葉を伝えるのが大事。絆(きずな)ができたと感じられたら、その人は死ぬことはない」
毎日新聞 2006年5月10日 東京朝刊
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