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表現行為に違法な行為を生じさせる実質的な危険性があったことが証明されない限りは、違法な行為の扇動は処罰されるべきではない

02年月刊誌掲載・再掲載

国民の義務とした「差別禁止」条項などの問題     
 全解連書記次長 新井直樹

http://homepage3.nifty.com/na-page/17.html


 政府は、今国会(六月一九日会期末)において、憲法違反の有事法制関連三法案を強行裁決し、戦前における国家総動員・治安維持体制を再現し、アメリカの戦争に日本を参戦させようとしています。この法案では平和の内に生きる権利、反戦の思想・内心や集会・結社の自由、報道の自由を「公共の福祉」の名で規制しようとしています。
 さらに政府・与党は、法案名称の美名に隠れて、こうした国民の言論・表現の自由、国民の権利を一層抑圧・規制する狙いをもって、「個人情報保護法案」や「人権擁護法案」を位置づけ、今国会で可決する意図を放棄していません。(五月一八日現在)
 人権擁護法案は、法務省の外局に人権委員会を設置し、差別、虐待、マスコミによる人権侵害も取り扱い、任意による「一般救済」と、「特別救済」として調停、仲裁、勧告、公表、訴訟援助などを行います。また委員会は、質問調査権や強制的な権限も持ち、応じない場合は過料や罰金を科し、マスコミ報道による人権侵害も勧告内容の公表を行うとしています。
 この法案に対し、国連パリ原則(一九九三年国連総会で採択)でいう政府からの独立性の確保が担保されていない、報道による人権侵害が「特別救済」の対象にあげられていることから、政府機関による報道への不当な干渉につながりかねない、国民の知る権利に答えられない、労働事案が除外されているとして、断固反対や廃案の立場が多く表明されています。
 しかし、法案の問題点はこれだけではありません。
 人権擁護推進審議会設置や審議会議論の経過をみれば明らかなように、「解同」らは「差別禁止法」の制定を強く求め、一方、人権教育・啓発推進所管の法務・文科省は、差別の要因を国民の意識の有りように求め、その改変を迫る法律の制定や「基本計画」の策定を進めてきており、これら事態の反映もあって、法案第三条は包括的な差別禁止条項となり、公権力等による差別禁止を明示せず、差別禁止を憲法体系に反して国民の義務として一方的に押しつける仕組みとなっています。
 また「人種等の属性を理由とする」「差別的言動」「属性情報の掲示」「差別助長行為」に対し、過料の制裁を伴う調査権限をもって差止め勧告や訴訟の提起を行うとしており、表現行為に対し、その表現内容にまで踏み込んで裁定を行うなど、言論表現の自由の立場からの解決を困難にし、国民の自由な言論活動を制限し萎縮させかねないものです。
 五月一二日に読売新聞社が両法案の修正試案を公開したところ、首相や官房長官も法案の再検討を指示する状況にあります。読売試案は、両法案のもつ基本的な問題点を内包したままであり、世論を一層喚起し、廃案に追い込みたいと考えています。
 全解連は、三月八日にこの法案が閣議決定され国会に提案された事態をうけて、三月一五日付で「言論表現の自由及び私的自治を侵す人権擁護法案に反対する」との見解(資料一)を、また四月二四日に参議院本会議先議で質疑がはじまったことから、「人権擁護法案は国民の権利侵害法であり廃案を求める(国会議員に対する申し入れ)」申し入れ書(資料二)も作成し、反対運動に取り組んできました。
 本稿では、「差別禁止」に係わる問題を中心に取り上げます。
 

 本年二月六日に、「人権擁護法案(仮称)の大綱」に関する質問主意書(二二項目)を川田悦子・衆議院議員が提出しました。その答弁書の中で、「差別助長行為等」について、次のように法務省は回答しています。
 「大綱第一の三(三)の「差別助長行為等」とは、(1)人種等を理由とする不当な差別的取扱いを助長し、又は誘発する目的で、例えば、いわゆる同和地区の所在を網羅した書籍を頒布するなど、人種等の共通の属性を有する不特定多数の者が当該属性を有することを容易に識別することを可能とする情報を公然と摘示する行為、及び(2)例えば、特定の人種又は民族に属する者へのサービスの提供を拒否するため、外国人の入店を拒否する旨を店頭に掲示するなど、人種等の共通の属性を有する不特定多数の者に対して当該属性を理由とする差別的取扱いをする意思を公然と表示する行為を指している。」
 「大綱第一の三(三)の差別助長行為等については、特定の個人の人権を直ちに侵害するものではないことなどから、個人による実効的な訴訟遂行が期待できないので、当該行為により不当な差別的取扱いを受けるおそれのある不特定多数者のために、人権委員会が自ら訴訟を提起してその差止めを求めることとするものである。」
 これら「差別助長行為」や「訴訟援助」の問題は、審議会「中間まとめ」(二〇〇〇年一一月)において検討課題とされていた事項でした。
 「第四 必要な救済措置とこれを実現するための手法」「一 人権侵害類型と必要な救済措置 (イ)差別表現 (二)いわゆる部落地名総鑑の出版やインターネット上の同種情報の掲示のように、人種,民族,社会的身分等に係る不特定又は多数の者の属性に関する情報を公然と摘示するなどの表現行為であって、差別を助長・誘発するおそれが高いにもかかわらず、法律上又は事実上、個人では有効に対処することが著しく困難な一定の表現行為が行われた場合の救済については、表現の自由との関係に十分配慮しつつ、差止め、削除等の手法の可否について引き続き検討することとする(第四、二(七)参照)。」
 「(七)特定の事案に関する強制的手法 差別を助長・誘発するおそれの高い一定の表現行為や慣行的な差別的取扱い等、被害者個人による訴訟提起が法律上又は事実上著しく困難であったり、それだけでは問題の実質的解決にならない事案に関する救済の在り方については、上記手法のほか、人権救済機関による命令・裁定や人権救済機関が裁判所に差止命令の発付を求める制度等も視野に入れつつ、表現の自由との関係や行政と司法の在り等を踏まえて、引き続き検討することとする。」
 このように「中間まとめ」の時点では、これらの問題は「表現の自由の保障に抵触するおそれが極めて高く、憲法上疑義がある」と任意的手法による対応を求める意見が大勢をしめた経緯があります。にもかかわらず「部落地名総監のような差別助長表現や集団誹謗的表現は、表現の自由の保障の範囲外」との異論も提示され、公聴会や意見募集の過程で私たちは反対の立場を宣伝しましたが、結局「積極的救済」の対象にされてしまった問題です。
 審議会最後の頃の議論をみると、いわゆる差別する自由はない、結婚問題の厳しさがわかっていない、など恫喝まがいの意見も見られます。このように「人権が侵害された場合」の主要な内容は「解同」が主張してきた、地名総鑑、身元調査、結婚差別、落書き、張り紙、インターネットなどに係わる「部落差別」問題であり、「被害者救済」も「解同」が「自力救済」といって憚らない「確認・糾弾」でとりあげきたが「効果的、迅速な解決がはかられていない問題」が対象にされているものです。
 「差別的表現は法的に規制すべきか」(江橋、浦部、内野、横田)が一九九二年の『法律時報』でとりあげられていたが、差別表現の規制は合憲であるか否かは議論が分かれていました。しかし、「解同」は差別表現行為や内容の法規制は、人種差別撤廃条約に照らして可能であるとの立場から主張を展開してきましたが、今回の法案に反映されてしまったものです。
 この問題は、矢田問題、埼玉加須事件、八鹿高校事件、近年でも川島町議除名事件、三重弓矢問題など、表現内容について「解同」や「法務局」ですら「差別」と一方的に断定し、人権侵害を平然と行ってきた過去を、また「放送レポート」でも明らかにされているように、メディア関係者の発言や活字が、「差別を助長する」とされ、出版物の回収(事前・事後)が行われてきた経緯をみれば、問題の重大さがわかります。
 「解同」ともども人権委員会が憲法二一条に反して、国民の言論表現の自由に介入し抑圧できる公の法的条項と機関がつくられようとしており、委員会裁定に不服申し立てもできない欠陥機関、このことの重大性はもっと喚起されてしかるべきと考えます。


 「解同」は、人権擁護推進審議会第三五回会議(一九九九年一二月一四日)で、「今後の基本課題」として「差別の禁止、少なくとも人種差別撤廃条約を踏まえた「差別禁止法(仮称)」の制定が必要」「このような差別禁止法がなければ、たとえ国内人権機関が設置されたとしても、何が差別であり何が人権侵害かが不明確なため、効果的な調査や調停を行うことはできません」と発言していました。
 私たちは、この「差別禁止法」の制定を求める意見に対し、国民内部の問題を解決するとした場合の「差別」のとらえ方や構成要件、「差別行為」を明示することの困難性、さらに現刑法とのかねあい等、検討すべき事項が多くあること、また近年、虐待防止、ストーカー規制法、DV防止法などが制定されてきているもとで基本的には個別法の改善をすすめること、そして公権力や企業などの社会的権力による差別を禁止するための法制度については、例えば性差による賃金格差の改善や障害者雇用の義務づけなど雇用者罰則の強化を行うことが必要だと主張し、行政機関が司法の領域に介入することに反対を表明しました。
 なお韓国では、「国家人権委員会法」(公布二〇〇一年五月二四日、法律第六四八一号、施行二〇〇一年一一月二五日)が制定されています。
 「第一章 総則 第一条(目的)この法律は、人間の尊厳及び価値、不可侵の基本的人権を保護し、人権の水準を向上させる国家の義務を果たすことにより民主的基本秩序を正しく立て直すのに寄与するために国家人権委員会を設置し、その組織及び運営に関して定めることを目的とする。第二条(定義)この法律で「人権」とは、憲法、大韓民国が加入・批准した国際条約及び国際慣習法及び法律によりすべての人が有する自由及び権利をいう」と、人権の保護を国家の義務として規定し、人権の定義も国際法に依拠することも明確にしています。
 一方、日本の人権擁護法案はどうか。
 「第一章総則(目的)第一条この法律は、人権の侵害により発生し、又は発生するおそれのある被害の適正かつ迅速な救済又はその実効的な予防並びに人権尊重の理念を普及させ、及びそれに関する理解を深めるための啓発に関する措置を講ずることにより、人権の擁護に関する施策を総合的に推進し、もって、人権が尊重される社会の実現に寄与することを目的とする。(定義)第二条この法律において「人権侵害」とは、不当な差別、虐待その他の人権を侵害する行為をいう。(人権侵害等の禁止)第三条何人も、他人に対し、次に掲げる行為その他の人権侵害をしてはならない。一次に掲げる不当な差別的取扱い イ国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する者としての立場において人種等を理由としてする不当な差別的取扱い ロ業として対価を得て物品、不動産、権利又は役務を提供する者としての立場において人種等を理由としてする不当な差別的取扱い ハ事業主としての立場において労働者の採用又は労働条件その他労働関係に関する事項について人種等を理由としてする不当な差別的取扱い(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和四七年法律第一一三号)第八条第二項に規定する定めに基づく不当な差別的取扱い及び同条第三項に規定する理由に基づく解雇を含む。) 二次に掲げる不当な差別的言動等 イ特定の者に対し、その者の有する人種等の属性を理由としてする侮辱、嫌がらせその他の不当な差別的言動 ロ特定の者に対し、職務上の地位を利用し、その者の意に反してする性的な言動 三特定の者に対して有する優越的な立場においてその者に対してする虐待 2何人も、次に掲げる行為をしてはならない。一人種等の共通の属性を有する不特定多数の者に対して当該属性を理由として前項第一号に規定する不当な差別的取扱いをすることを助長し、又は誘発する目的で、当該不特定多数の者が当該属性を有することを容易に識別することを可能とする情報を文書の頒布、掲示その他これらに類する方法で公然と摘示する行為 二人種等の共通の属性を有する不特定多数の者に対して当該属性を理由として前項第一号に規定する不当な差別的取扱いをする意思を広告、掲示その他これらに類する方法で公然と表示する行為 (国の責務)第四条国は、基本的人権の享有と法の下の平等を保障する日本国憲法の理念にのっとり、人権の擁護に関する施策を総合的に推進する責務を有する。」
 このように日本の法案は、「差別」「不当」「人権」「虐待」について定義せず、しかも教育基本法第三条(教育の機会均等)でいう「すべて国民は、ひとしく、その能力に応ずる教育を受ける機会を与えられなければならないものであって、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない。」との「差別されない」という国民に対する国の取り扱いが明確にされていない、重大な欠陥があります。
 「解同」が私人間の差別禁止を主張したことを逆手にとり、「人権」を韓国の人権委員会法のように国際条約に則って規定せず、「不当」という曖昧な表現で私人間の問題に踏み込み裁定しようというものです。国際的諸条約や国際社会との関係で見ても、曖昧な対象として「差別」的表現行為・内容を排除する人権委員会は奇異な機関であり、「被害者救済」をいいつつそこに限定した仕組みを取らず「事前予防」と称して「啓発」ですますのでなく、出版差し止め・訴訟援助までおこなう、二重三重に国際社会から隔絶した代物となります。
  

 この法案は、これまで述べてきたように、差別を助長・誘発する表現や集団誹謗的表現などの「差別表現」を規制対象にしています。とりわけ、日本政府は人種差別撤廃条例の締結に際して表現の自由との関連で一部条項の留保を行った経緯があるにも係わらずです。
 昨年七月九日に外務省は、「人種差別撤廃委員会の日本政府報告審査に関する最終見解に対する日本政府の意見」を人種差別撤廃委員会に提出しました。
 この「報告審査」の中には、もとより看過できない問題が含まれていました。それは第一に、委員会が条約第一条に定める人種差別の定義の解釈に関わって、「世系(descent)」の語にはそれ独自の意味を持っているとし、部落民を含む全ての集団について、差別から保護されることなどを勧告したこと、第二に、条約第四条(「人種優越主義に基づく差別及び扇動の禁止」)は義務的性格を有しており、意見や表現の自由の権利と整合するとして、締約国の義務と抵触すると懸念を表明したこと、です。
 われわれも委員会に抗議をしましたが、外務省もこれまでの政府見解の立場を踏襲して次のような内容の批判文を提出しました。
「立法措置は、状況により必要とされ、かつ立法することが適当と締約国が判断した場合に講じることが求められていると解される。我が国の現状が、既存の法制度では差別行為を効果的に抑制することができず、かつ、立法以外の措置によってもそれを行うことができないほど明白な人種差別行為が行われている状況にあるとは認識しておらず、人種差別禁止法等の立法措置が必要であるとは考えていない。」
「なお、人種差別思想の流布や表現に関しては、それが特定の個人や団体の名誉や信用を害する内容を有すれば、刑法の名誉毀損罪、侮辱罪又は信用毀損・業務妨害罪で処罰可能であるほか、特定の個人に対する脅迫的内容を有すれば、刑法の脅迫罪等により処罰可能である。また、人種差別的思想を動機、背景とする暴力行為については、刑法の傷害罪、暴行罪等により、処罰可能となっている。また、私人による差別について、不法行為が成立する場合には、そのような行為を行った者に損害賠償責任が発生するほか(民法七〇九条等)、公序良俗違反の法律行為である場合には、民法九〇条により無効とされる。」
「第四条の定める概念は、様々な場面における様々な態様の行為を含む非常に広いものが含まれる可能性があり、それらのすべてにつき現行法制を越える刑罰法規をもって規制することは、その制約の必要性、合理性が厳しく要求される表現の自由や、処罰範囲の具体性、明確性が要請される罪刑法定主義といった憲法の規定する保障と抵触する恐れがあると考えたことから、我が国としては、第四条(a)及び(b)について留保を付することとしたものである。また、右留保を撤回し、人種差別思想の流布等に対し、正当な言論までも不当に萎縮させる危険を冒してまで処罰立法措置をとることを検討しなければならないほど、現在の日本が人種差別思想の流布や人種差別の扇動が行われている状況にあるとは考えていない。」
「例えば英国の一九八六年の公共秩序法第一八条第五項には、「人種的憎悪を扇動する意志があったことが証明されなかった者は、その言葉、行動、筆記物が脅迫的、虐待的、侮辱的であるとの意識がなくかつそれに気づかなかった場合には、本条の下の犯罪として有罪にはならない。」と規定している。また、「人種主義とメディア」に関する共同声明(意見と表現の自由に関する国連特別報告者、メディアの自由に関するOSCE(欧州安保協力機構)代表及び表現の自由に関するOAS(米州機構)特別報告者による共同声明)の中でも、差別的な発言に関する法律は、「何人も、差別、敵意ないし暴力を扇動する意図をもって行ったことが証明されなければ、差別的発言(hatespeech)のために罰するべきではない。」と。
 基本的に同意できる内容です。問題は「中間まとめ」の時に論点となった、「集団の名誉や侮蔑」表現、「部落地名総監のような出版物」等への法規制を、ここで述べているように刑法で十分処罰可能であるとするか、処罰の前に行政指導や行政処分を先行させることを可能とするか、という問題です。
 例えば、インターネット上の表現位置づけについて合衆国最高裁判所は、新聞と放送の区別を維持しつつ、インターネットには周波数の稀少性は妥当せず、放送についての法理は妥当しないと判断し、表現の自由の法理が前提とする「思想の自由市場」をストレートに適用しています。日本国憲法のもとで第二一条の表現の自由も同様に考えられ、新聞の場合よりも裁判所がとりわけ手厚い保護を与えることが必要との意見が学者研究者の多数です。この立場からすると表現の制約は、とりわけ厳しい基準を満たさない限りは許されないものとなります。「やむにやまれない政府利益の基準」をクリアすることが不可欠です。
 違法な行為の扇動に対する規制基準として、合衆国最高裁判所が示した基準(ブランデンバーグの基準)があります。それは、表現自体が違法な行為を直接扇動していて、しかもその表現行為に違法な行為を生じさせる実質的な危険性があったことが証明されない限りは、違法な行為の扇動は処罰されるべきではない、というものです。「差別を助長する表現」「名誉を毀損する表現」「侮蔑する表現」とは区別され、これらの表現に対する規制は、憲法上の正当化は困難と指摘する学者がこれまた多数です。
 このようにインターネット上での表現行為については、表現は表現で対抗すべきだとの表現の自由の基本原理がより強く妥当する余地があります。表現行為に対して名誉毀損として損害賠償責任を負わせるためには、表現が虚偽であり虚偽の事実の公表に故意過失があったことを原告が証明しなければならず、公職者などの場合でも表現者が「現実の悪意」を有していたことを証明しないとなりません。
 米国憲法修正第一条は、「・・・言論あるいは出版の自由を制限し、または人が平穏に集会し、また苦痛の救済を求めるため政府に請願する権利を侵す法律を制定してはならない。」と明確に規定し、たとえば通信品位に係わる「ポルノ規制」なども、これに反する法律として違憲とされています。
 このように、「差別的取扱い」とか「差別表現」などといわれるものは、極めて多義的で評価の分かれる類の問題であり、安易に差止めや削除等の措置が許されないものです。とりわけ「差別表現」の問題は、言論表現の自由や文化の問題、思想信条の自由とも深く関わるものであり、法務省が人種も含めた差別禁止を、取り扱いのみならず、差別助長・誘発などと、人種差別撤廃条約でいう差別扇動に類する問題にまでかってに法の網を広げたことは、これまでの政府・外務省見解に反するものであり、また、なんでも米国のいいなりの政府であるにも係わらず米国憲法修正第一条を無視するなど、権力的発想が極めて濃厚です。

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資料一 
 言論表現の自由及び私的自治を侵す「人権擁護法案」に反対する 
一、政府は今国会に「人権擁護法案」を提出し、五月中に可決し、来夏には人権委員会を発足させる運びである。この法案は、人権擁護推進審議会が、昨年五月に「人権救済制度の在り方について」とりまとめた答申を土台としている。法案は、法務省の外局に人権委員会を設置し、差別、虐待と並んでマスコミによる人権侵害も取り扱い、これまでの制度と同様の任意による「一般救済」と、調停、仲裁、勧告、公表、訴訟援助などを行う「特別救済」に分けている。しかも、委員会は質問調査権や強制的な権限も持ち、応じない場合は過料や罰金を科し、マスコミ報道による人権侵害も勧告内容の公表を行うとしている。
一、この法案は、我々をはじめ多くの国民の意見や批判を軽視し、審議会が当初からもっていた制約や本来的な問題を内包したまま、まとめられたものである。
(1)国民の基本的人権の重要な柱である「裁判を受ける権利」を擁護し、発展させる立場からすれば、司法の民主的改革と連動するのでなく、裁判外紛争処理機関の設立根拠を「簡易性、柔軟性、機動性」と称して、司法の内在的限界論の立場をとり、裁判を受ける権利の形骸化及び三権分立における行政権の肥大化につながりかねない危険性が指摘される。
 こうした問題の克服は、国民の身近で頼りになる司法の民主的改革が基本であり、少なくとも政府から人事、運営、財政の各面で独立して活動できる人権救済機関の設置が必要であるが、人権委員会の帰属や格付けをも含む独立性の確保、民主的選任と国民の信頼をうる人権擁護委員の在り方でも十分な配慮がなされていない。
(2)公権力や社会的権力(大企業など)こそ人権侵害の元凶であるにもかかわらず、この問題を「特別救済」にきちんと位置づけず、国民の言論・表現、内心の自由や知る権利など、いままで国民間の問題で踏み込まなかった分野に、行政機関が調査権限や罰則をもって介入しようというものである。
(3)法案の土台である答申は、同和の特別対策の終結との係わりから審議会が設置され、とりまとめられた経緯があり、人権問題といいながら差別問題が中心であり、しかも同和問題を色濃く意識したものとなっていたが、その問題点が法案にも反映している。
 つまり、同和問題に係わる結婚・交際問題のように、この分野で合意されてきた政府見解では、何が差別かを判定することは困難であり、法律などで罰したり規制することは、かえって啓発に反し差別の潜在化を招くと捉えていたが、この法案は明らかに問題解決に逆行する仕組みを内包している。
 結婚・交際に際して、「差別」との断定のもとに、嫌がらせや侮辱などに「特別救済」を行うことは、国民の内心の自由への介入につながり、意に反する婚姻の強制など憲法が保障する婚姻の自由への行政権力の介入になりかねず、結果的に人権を侵害し、部落問題解決をも阻害するものである。
(4)マスコミによる人権侵害については、マスコミ自身の自主的な解決機関の設置による解決が基本であり、この問題をめぐって言論・表現、報道の自由を侵害しかねない行政的な介入は許されない。
 あくまで表現には表現で対抗することが近代社会の基本であり、定義できない「不当な差別的言動」「差別助長行為」などの表現行為に対して、曖昧な基準で「停止」「差し止め」など物理的、強制的な手段による対応を行うことは、言論表現の自由を侵害し、しかも自由な意見交換のできる環境づくりによる部落問題解決にも逆行する。
 このように、この法案は、国民の希望してきた人権救済制度のあり方に十分応える内容になっていないばかりか、従来、国民生活に係わる私的自治やマスコミのような報道の自由が不可欠な分野へ新たな権力の介入に道を開き、しかも異議申し立てなどの反訴や黙秘権も明確に規定されておらず、新たな人権侵害を生み出しかねない危険性をはらんでいる。
一、国連規約人権委員会は、「我が国の報告書に対する最終見解」で「警察及び出入国管理当局による不適正な処遇について」と「児童の権利」に関して「調査及び救済を求める申立てができる独立した機関等を設置」することを求めている。国連の方針がすべて正しいものではないが、関係当局は国内実状を一定反映した「勧告」を誠実に受け止め、各々指摘のある分野について個別法の改善整備を含む迅速な検討が求められている。
 国連は、とりわけ「独立した機関」が必要と指摘している分野をこのように限定しており、人権侵害の元凶である公権力や社会的権力(大企業など)を規制することを曖昧にし、国民の私的領域や言論の分野に踏み込むような機関はもとより想定していない。
一、全解連は、この法案のもつ問題を広範な国民に知らせ、共同して廃案に追い込むよう全力をあげる。
 
資料二
 人権擁護法案は国民の権利侵害法であり廃案を求める(国会議員に対する申し入れ)
1、翼賛体制確立の一里塚
 政府は今国会において、憲法違反の有事法制案を強行裁決し、戦前における国家総動員体制の確立で、アメリカの戦争に日本を参加させようとしています。有事の名のもとに、国民が平和のうちに生きる権利を侵害し、土地や財産のとりあげ、言論表現の自由を奪うなど基本的人権の蹂躙を企んでいます。
 こうした翼賛体制を確立する上で、マスコミをはじめとする国民の言論表現を管理することが支配に不可欠であることから、「人権擁護」という美名で、国民の権利侵害法がまとめられたものです。
 政府は、「個人情報保護法案」や「人権擁護法案」を今国会中に可決し、来年四月~七月に人権委員会を発足させる予定でいます。
 人権擁護法案は、法務省の外局に人権委員会を設置し、任意による「一般救済」と、差別、虐待、報道機関による人権侵害や差別助長行為等を「特別救済」に位置づけ、調停、仲裁、勧告・公表、訴訟援助などを行います。また委員会は、過料の制裁を伴う調査権限を有し、行為の差止めやマスコミ報道による人権侵害も勧告・公表を行うものです。
2、国連勧告や決議を無視し、国民の権利を規制するもの
 法案の提案理由には、「被害の適正かつ迅速な救済又はその実効的な予防」があげられています。
 もともとは、同和問題解決の特別対策を終了し(本年三月末で失効)、一般対策への円滑な移行を論議していた平成八年(一九九六年)五月の地域改善対策協議会意見具申により、人権救済の在り方を調査論議する人権擁護推進審議会が設置され(一九九七年三月から五年の時限法)、昨年五月に人権救済制度の在り方についての答申にもとづいて法案は作成されています。
 よって、国民間の差別問題、とりわけ同和問題に係わる差別問題を色濃く反映しています。
 国連(自由権)規約人権委員会は一九八八年に、「我が国の報告書に対する最終見解」で「警察及び出入国管理当局による不適正な処遇について」と「児童の権利」に関して「調査及び救済を求める申立てができる独立した機関等を設置」することを求めています。 
 国民の願いは、人権侵害の元凶である公権力や社会的権力(大企業など)の横暴を規制し、人権侵害を効果的迅速に排除することです。また私人間の問題でも、雇用差別の禁止など外形的な問題と思想・信条や内心に係わる問題をきちんと区別することも求めています。
 しかし、この法案は、国連がとりわけ「独立した機関」が必要と指摘している分野に限定して「特別救済」を行うのではなく、差別・虐待など曖昧な概念をもって、国民の私的領域や言論表現の分野に踏み込み、自由を規制しようとしています。 
 しかも、この法にもとづく、行政機関である人権委員会は、「特別救済」と称して、差別・虐待などの人権侵害を裁定し、勧告・公表を行うなど、行政手続き法上も問題を含み、一方的に「加害者」を認定し人権を侵害しかねないものです。
3、差別の禁止を国家でなく国民の責務にしている
 日本弁護士連合会は、政府からの独立性の確保の点で致命的な欠陥があると指摘して、仕組みを改めた上、出直すべきとの理事会決議をあげています。また、日本新聞協会、日本民間放送連盟、日本放送協会は報道による人権侵害が特別救済の対象にあげられていることから、政府機関による報道への不当な干渉につながりかねない、国民の知る権利に答えられないとして、報道の自由に十分配慮した制度を共同で求め、断固反対の立場を鮮明にしています。
 このように、政府からの独立性の確保、メディアの言論・表現の自由の確保が保障されないことから反対の取り組みが進められています。
 しかし一方で、民主並び社民党は、政府案と同様に、「人権」や「差別」「不当な差別的取り扱い」「不当な差別的言動」を明確に概念規定せずに用いて、恣意的運用に為りかねない法案(大綱)を準備しています。
 「特別救済」の対象からマスコミを除外し、法務省の外局から内閣府に所管を移しても、国民の権利侵害がなくなるものではありません。特に、「国民の責務」を規定して、国家による国民の権利擁護義務でなしに、国民の義務により人権侵害行為を禁止するというもので、憲法の理念が逆さまになっています。
 有事法制の問題と同様、国権主義の露骨なあらわれであり、私人間の問題ではより慎重に個別具体的な法制度・救済論議が求められます。
4、国民の言論表現の自由を規制しかねない
 一九七五年六月二九日施行の埼玉県加須市長選挙に際し、選挙ポスターに「同和対策是か非か」と記載し掲示したところ、差別の温存を意図するとして住民の抗議行動があり、選管はポスターの撤去を求め、候補者はこの文言の上に紙をはって消して対応したが、県・市の職員の干渉が無かったら当選していたであろうと、選挙の無効を訴えた事件があります。
 東京高裁の判決(一九七六年二月、判例時報八〇六号)は、差別待遇をしてはならないことは現代社会の基本理念であるが、対策事業を行うかどうか、その方策如何の問題は全く別個の事項。「これらについて論ずることはまさに言論の自由に属する。」仮に差別を助長するような言論をなす者があったとしても、これを公権力によって抑圧することが適法かどうかも全く別の問題。「言論に対しては言論をもってすべきが現代社会の常法であろう。」この文言は読みようによってはどのようにもとれる。選管や県・市の公務員が、趣旨を判断し、「やめさせるように働きかける権限をもつ根拠を見いだすことができない。明らかに公権力によって選挙における言論の自由と選挙の公正を害するもので、不当な選挙干渉というべきである。」と選挙無効を言い渡しました。
 最高裁もこの高裁判決を支持して上告を棄却しました(一九七六年九月、判例時報八二六号)。
 このように、表現行為の判定は大変困難であり、表現の自由の価値は、憲法上優位的位置にあります。
 しかし、この法案は、「人種等の属性を理由とする」「差別的言動」「属性情報の掲示」「差別助長行為」に対し、過料の制裁を伴う調査権限をもって差止め勧告や訴訟の提起を行うことから、表現行為に対し言論の自由の立場からの解決を困難にし、国民の自由な言論活動を萎縮させるなど、多くの問題を含んでいます。
 部落問題の分野では、これまで「解同」が一方的に「差別」と断定して行政・教育関係者も巻き込んで暴力的な「確認・糾弾」が行われ、教育関係者をはじめ多くの自殺者を生み出してきました。こうした行為は、政府・法務省でさえ、「啓発には適さない」「行政関係は出席するな」と通達せざるを得ないものでした。
 これが、部落問題について自由な意見交換を妨げ、行政・教育の主体性放棄、えせ同和行為の跋扈となり、問題解決を遅らせてきた主要な要因です。
 この法案は、これら「差別」について、これまでの「解同」にかわって「行政機関」が一方的に裁定するというものであり、国民の人権を保障もせず、差別の潜在化を招きかねないものです。
5、法案にどう対応するのか
 この人権擁護法案は、国民の自由な言論活動を萎縮させ、国家が言論を管理統制する方向を強めるものであることから、廃案にすべきです。
 国会闘争では、次の点を要求します。
(1)「加害者」の人権が保障される担保がないこと等から、「特別救済」は行わなわず、「一般救済」手続きのみを取り扱う「人権委員会設置法」とする。
(2)国家行政組織法3条2項の人権委員会は、末端事務局に至るまで人選・運営などに透明性を確保し、人権擁護委員の民主的選任等をおこなう。
(3)国連勧告をふまえて、「警察及び出入国管理当局による不適正な処遇」や「児童の権利」に関して「調査及び救済を求める申立てができる独立した機関等」を、国連が一九九三年に採択した「パリ原則」にそって、法務省や行政機関の管轄に属さない「政府からの独立性」が確保された機構の設立をあらためて検討する。

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