人権NGOの社会的地位
自由法曹団通信1193号(3月1日)
http://www.jlaf.jp/tsushin/2006/1193.html#04
ニューヨーク 人権留学日記 2
―人権NGOで働くという新たな弁護士像―
東京支部 土 井 香 苗
みなさま、こんにちは。東京駿河台法律事務所に所属する土井香苗です(五三期)。昨年八月から、米国はニューヨークにありますNYU(ニューヨーク大学)ロースクールの修士課程(一年間)に留学しています。
一二月に秋学期(前期)の試験も終わり、一月から春学期(後期)が始まってあっという間に後半戦に突入。ビジネススクール他、修士課程といえど二年のコースが多い中で、法学修士は一年コースなので、光陰矢のごとしです。数ヵ月後に卒業を控える春学期、もちろん「就職」活動も盛り上がります。
通常のアメリカの学生たちはJDという三年のコースを卒業します。ビジネス系の事務所に入所する場合には二年生のうちに就職を決めてしまう人が多いようです。就職が決まった後、三年生は成績もあまり気にせずのんびり学校生活を楽しんでいる人も多いと聞きます。
一方、LL.M.生(ほとんどは出身国で弁護士資格を有している)はそもそも一年コースですから、卒業数ヶ月前になって就職活動をしている人が大部分です。一月にはNYUで、外国人LL.M.生に対する集団就職面接会(主にビジネス系)が開かれました。全米各地からLL.M.で学ぶ外国人学生たちが集まり、リクルートスーツに身を包んだ各国からのLL.M.生たちでNYUがごったがえしていました。大手法律事務所や大企業などが百社近くNYUに集まりました。
一方、公益弁護士を目指す場合には、就職戦線開始が遅いようで、JDの場合にも、LL.M.生と同じように、三年生になってから就職を決める学生が多いようです。先日(二月)、NYUで、大規模な、公益弁護士のための就職面接会が開かれました。これは主にJDを対象としており、全米各地から、公益弁護士を目指すJD生がやってきました。
ここアメリカでの「公益弁護士」像を見て、うらやましいなあと思うことがあります。それは、就職の際、フルタイムで公益活動をするという選択肢があることです。日本の法律事務所のように、一般事件をこなしながら人権活動もするといういわゆるパートタイム人権弁護士の事務所もあるのですが、弁護士が公益的NGOに雇われるという道もあります。特に、ヒューマンライツ ウォッチ(専従職員約二〇〇名)やヒューマンライツ ファースト(専従職員約六〇名)などの弁護士を中心とする、国際的な人権問題を扱うNGOはとても人気が高く、その競争率たるや相当のものになっています。NYUの学生たちの中でも、人権活動を最も一生懸命やっている一人の学生が大喜びしていたので、どうしたのかと聞いてみたところ、ヒューマンライツ ウォッチに採用されたのだそうです。一年契約だったのですが、それでも天地がひっくりかえるかと言うほど大喜びしていたのが印象的でした。五ヶ国語を操ることができる優秀な学生でさえ、ヒューマンライツ ウォッチのインターンシップに合格できなかったという話もあるくらい、要求されるレベルの高さは並大抵のものではありません。
彼女が採用されたヒューマンライツ ウォッチは、アメリカ政府が対テロ戦争の名の下に行っている人権侵害等も扱いますが、アメリカのみならず、世界七〇国以上の人権問題を扱います。世界各国の女性の権利、子どもの権利、不正使用のための武器流出問題(the flow of arms to abusive forces)、学問の自由、人権に対する企業責任、国際司法、監獄、薬物、難民などの改善のため、事実調査(ファクト ファインディング)を行って信頼性の高いレポートを発表します。その調査結果をもとに、現地の人権活動家と協力し、アメリカ政府や国連に働きかけます。一九九七年には、地雷禁止キャンペーンのメンバーとしてノーベル平和賞も受賞しました。旧ユーゴスラビアの国際戦犯法廷の求めにより、同裁判所の調査団・検察官と共に調査活動なども行っています。
最近、国際貢献・国際協力をしたいという若い司法修習性たちから、よく連絡をもらいます。一〇年前、私がアフリカでボランティアをしたころは、若い修習生で第三世界の人々のために働きたいなどという人は全然いなかったのですが、時代は変わったのだと思います。
残念ながら、日本には、概ね、「国際貢献」のうち、前者「国際」をとると「国際ビジネス」しかなく、「貢献」をとると国内的な貢献つまり人権活動しかないというのが現状ではないでしょうか。若い修習生たちが「国際」と「貢献」のどちらを選択するべきか迷う姿に何度も出会いました。そして残念ながら、迷う修習生たちの多くが「国際」ビジネスをしぶしぶ選ぶのも目撃しました。日本にも、アメリカの国際人権NGOのような場があり、プロフェッショナルとしての(仕事としての)国際的人権活動という新たな弁護士像が彼ら/彼女たちに示せていれば、と悔やまれます。
日本にもロースクールが設立されて、学生たちの興味と専門性はより多様になると思います。(国際)人権NGOのフルタイム弁護士(インハウス ローヤー)という新たな弁護士像を、日本でも示していく必要があるのではないか、とNYの就職戦線に身を置きながら感じている今日この頃です。
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