県同教へ教諭派遣は違法
「解同」といういち民間団体の運動方針を公教育に持ち込み、教育基本法がいう「教育の中立性の確保」を平然と侵してきた事態に、司法の断罪が下されました。
荷担してきた行政も同罪です。
以下、植山さんの報告を引用します。
福岡県人権連事務局長 植山光朗
福岡高等裁判所五〇一法廷(中山弘幸裁判長)は十月十七日、福岡県人権・同和教育研究協議会(県同教)への教諭の同和教育研修派遣の違法性を問う住民訴訟控訴審(県同教裁判)で判決を言い渡した。
高裁判決は、原告住民側が主張した派遣の違法性、それに伴う給与支払い(公金支出)を全面的に認め、それぞれを違法とした。派遣に関しては「県同教の運営を担うことを主たる目的としたことは明らか」として「教育公務員特例法第20条を大きく逸脱し違法」と明確に断罪した。
県同教についても高裁判決は、派遣先である県同教は、同和団体のひとつである解同の関係者が常時副会長の一人に就任し、その解同福岡県連と事業の共催等連携を図っており、教育の中立性の要請から研修先の適性に疑義を生じさせ、派遣教諭がいち民間団体にすぎない県同教に実質的に勤務するのとほぼ変わらない状況にあったと判断。
さらに高裁判決は、県同教への教諭派遣の違法性の内容及び程度は、教育行政に課せられる法的に適正な職務執行義務に反するものとして、客観的には著しく合理性を欠き予算執行の適性確保の見地から看過し得ない程度に至っている可能性は否定できないと断じ、「県同教への教諭派遣とそれにともなう給与支払い(公金支出)がいずれも違法」と断定した。
しかし、麻生知事に対する給与返還は「派遣の具体的な実態を認識していたとまでは言えず、供与支払い調査義務を怠った過失責任を問うことは困難」として棄却。
小柳正之・元教育委員長については「訴訟に先立つ監査請求の対象になっていなかった」として却下した。
控訴審判決要旨はつぎのとおり。
平成15年(行コ)第14号
公金違法支出損害賠償、福岡県違法公金支出返還請求控訴事件判決要旨
1 事案の概要
本件は、福岡県の住民である被控訴人らが、福岡県教育委員会(県教委)が福岡県人権・同和教育研究協議会(県同教)に研修名目で教諭を派遣し、この派遣教諭に県から給与が支払われたことが違法であると主張して、その損害賠償を求めた住民訴訟である。
原判決は、改正前の地方自治法に基づき、県知事である麻生個人に対し、平成11年3月から平成12年3月までの間の派遣に係る給与合計約1億1363万円の損害賠償を求めた甲事件、平成12年8月から平成13年7月までの間の派遣に係る給与合計約1億0005万円の損害賠償を求めた乙事件、そして、改正後の地方自治法に基づき、執行機関である県知事に対し、平成13年9月から平成14年8月までの間の派遣に係る給与合計約8704万円の損害賠償を県知事である麻生個人及び県教委委員長である小柳個人へ請求するよう求めた丙事件の3件について、甲事件は請求棄却、乙事件及び丙事件は請求認容(被控訴人ら勝訴)と判断した。このうち、乙事件と丙事件で敗訴した麻生及び県知事から控訴されたので、本判決は、この両事件について判断した。
2当裁判所の判断
(1)丙事件の県教委委員長小柳に関する訴えが適法か否か
ア 地方自治法の定めにより、住民訴訟の提起前に監査請求を経ていなければならない。監査請求では、対象とする財務会計上の行為又は怠る事実を個別具体的に特定することが必要で、その程度は監査委員がその対象を認識することができる程度であれば足り る。そして、この対象とする財務会計上の行為又は怠る事実について、監査請求を経ていると認められる限り、監査請求において求めた具体的措置の相手方と異なる者を相手方とし、監査請求において求めた措置の内容と異なる請求をすることも許されると解される。
イ 本件で監査請求の対象として記載されている財務会計上の行為は、派遣教諭への給与支出の違法である。これに対し、丙事件の小柳に関する訴訟の対象は小柳が県同教への教諭派遣に関係したことによる小柳への損害賠償請求権の不行使という怠る事実である。このように、両者は、その対象を大きく異にしている。特に、原審では、被控訴人らはこの怠る事実を問題にした形跡がない。このことからしても、被控訴人らの監査請求には、小柳に対する損害賠償請求権の不行使という怠る寮実をその内容としていたとは認 められないことになる。結局、丙事件の県教委委員長小柳に関する訴えについては、監査請求を経ていないことになるので、不適法として却下を免れない。
(2)県同教への教諭派遣が違法であるか否か
ア 派遣教諭の数は、毎年8名ないし13名であった。これに対し、県同教の常勤職員の数は僅かに1名ないし3名にすぎない。従前から派遣教諭の多数が県同教の会長、副会長及び事務局長等の役員に就任し、県同教を代表して他の同和問題関係団体等の会合に参加することもあった。派遣教諭は、県同教が実施する各種会議の開催、運営に従事し、頻繁にそのための出張をしていた。県教委自身が本件派遣を県同教に対する人的支援と捉え、本件派遣の廃止後は県同教を中心に行われてきた主な同和教育、人権教育の研究・実践を県教委が主体性と責任を持って主催するとして、県教委、県同教、解同福岡県連合会の三者で協議した。これらの事実を総合すると、県同教の運営が実質的に派遣教諭によって担われてきたこと、すなわち、県同教への教諭派遣がその運営を担うことを主たる目的としていたことは明らかである。
イ 教諭の長期研修に関する規則によれば、研修期間は6か月以内が原則とされる。ところが、県同教への教諭派遣は、いずれも数年間に及び、研修期間の明示もないまま、結果的に11年聞に及んでいる例もある。研修期間の長期化は、研修内容からの要請よりも、むしろ県同教の円滑な運営からくる要請によるところが大きい。派遣教諭の中には、その終了と同時に定年で退職した派遣教諭もおり、中には退職するまで延べ13年間にわたって派遣され、その間に県同教の会長に就任している例もある。これらは、一般の教諭の長期研修とは大きく異なる。また、研修成果の報告も十分になされていたとはいいがたい。加えて、派遣先である県同教は、同和問題の運動団体の一つである解同の関係者が常時副会長の一人に就任し、その解同福岡県連合会と事業の共催等連携を図っており、教育の中立性の要請から研修先の適性に疑念を生じさせる。まして、派遣教諭が、県同教の事務局員として、民間団体の役員選挙のための出張や法律制定運動の実行委員会へ出張することも、研修の趣旨からしても望ましくないものである。
ウ 確かに、国及び県の指針において、教職員の研修並びに同和教育団体の育成、学校教育及び社会教育における指導者の育成の必要性が謳われており、これらが極めて重要な間題であることはいうまでもない。しかし、教職員の研修と同和教育団体の育成や社会教育における指導者の育成とは本来別のものであり、その目標に関する個々の法律が規定する手続でもって行われなければならない。その意味で、教特法20条3項、長期研修規則に基づく研修名目で、同和教育団体である県同教の運営を担う目的で本件派遺を行うことは、その法の趣旨を大きく逸脱している。
エ 以上のとおり、県同教への教諭派遣は、いずれも実質的には県同教の運営を担うためのものであり、教特法20条3項が規定する研修の趣旨を大きく逸脱しているから、違法と断ぜざるを得ない。
(3)派遺教諭への県からの給与の支払が違法であるか否か
乙事件及び丙事件における教諭派遣に限れば、従前よりも研修期間が短縮しているものの、本件派遣の経緯や実態等からすると、単に教特法20条等に違反するにとどまらず、派遣教諭が一民間団体にすぎない県同教に実質的に勤務するのとほぼ変わらない状況にあったと評価される。そうすると、県同教への教諭派遣の違法は、これに関する職務命令、ひいては派遣教諭への県からの給与支出の違法に連なる関係にあるものと解される。この派遣教諭への給与支出の違法による県の損害は、まず、第1に違法な県同教への教諭派遣に関与した者が負うべきであるが、この給与支出に関与した者もその責任の有無が問われることになる。
(4)県知事麻生に派遣教諭への給与支出に関する損害賠償責任があるか否か
ア 県知事は、県教委の所掌に係る事項について予算執行に関する事務を管理し及び執行する(地教行法24条5号)。しかし、学校職員の任命及び服務監督に関する権限は県教委がこれを有し、県同教への教諭派遣を命じたのも県教委である。この県知事と県教委との権限の配分関係からすると、県教委が行った教特法20条に定める事務については、県知事は、同処分が著しく合理性を欠き、そのためこれに予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵の存する場合でない限り、同処分を尊重しその内容に応じた財務会計上の措置を採るべき義務があり、これを拒むことは許されないと解される。
そして、本件の県同教への教諭派遣の違法性の内容及び程度は、教育行政に課される法的に適正な職務執行義務に反するものとして、客観的には著しく合理性を欠き予算執行の適正確保の見地から看過し得ない程度に至っていた可能性を否定できない。
イ そこで、県知事の故意又は過失の有無を検討しなければならない。すなわち、派遣教諭への給与支出の本来的権限者は県知事であるが、その専決権者は教職員課長であるから、このような場含には、本来的権限者は、専決権者が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意又は過失により、右補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったときに限り、責任を負うべきであると解される。
この点、県議会における質疑の経過等からすると、県知事も本件派遣に関する派遣教諭の人数、派遣期聞の長期化、研修内容等に関して疑問が指摘されていることは認識していた可能性はあるが、その当時、本件派遣の具体的な実態までも認識していたことを認めるに足りる証拠はない。また、県教育公務員の研修の実施に関しては、県知事の権限事項ではなく県教委の専権事項であり、県議会における質疑も直接的には県教委の教育長に対して行われている。そうすると、いまだ具体的な調査義務が県知事にあったとはいいがたく、それらを契機として具体的な実態の把握に努めなかったことをもって、直ちに県知事
個人に財務会計上の権限行使に当たっての過失があったと評価することは相当でない。平成12年6月1日に派遣教諭への給与支出が違法であるとして県知事に対する甲事件の損審賠償請求訴訟が提起され、平成13年7月27日に乙事件被控訴人らによる乙事件の監査請求がされ、同年9月21日にこれに対応する棄却決定がされるなど、本件派遣の問題は、次第に顕在化しつつあったことが認められる。しかし、甲事件や乙事件の監査請求においても、県監査委員は県知事を監査対象機関とはせず、県教委や関係市町教育委員会を調査したにすぎないから、これらを契機として、県知事が本件派遣の具体的な実態を認識していたということはもちろん、これを認識し得たともいいがたい。結局、丙事件の期間である平成14年8月まで派遣教諭への給与支出が継続されたことについて、県知事に上記調査義務を怠った過失責任を問うことは困難である。
したがって、県同教への派遺教諭に対する給与の支払に関して、麻生に県知事としての故意又は過失を認めることができないから、麻生に対する損害賠償請求は、いずれも理由がない。
(5)結論
丙事件のうち小柳に関する訴えは不適法なものとして却下を免れず、また、被控訴人らの乙事件及び丙事件のその余の請求はいずれも理由がないから棄却する。
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